米国版富者への道

中湖 康太
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『考えて豊かになる』(”Think and Grow Rich”)ナポレオン・ヒル著を読む

物質的・金銭的豊かさと心の豊かさはひとつ

筆者が外資系投資銀行に入り駆け出しの頃に、英語の勉強もあって、原書と、アメリカ出張の際、ニューヨーク・マンハッタンの 5 番街の書店で購入した当時はカセット版のオーディオブックで何度も聴いたのが、Napoleon Hill(ナポレオン・ヒル)著の”Think and Grow Rich”(「考えて豊になる」)です。「思考は現実化する」のタイトルで翻訳本も出ています。 本書は、アンドリュー・カーネギー(鉄鋼王)、ヘンリー・フォード(自動車王)、ジョン・A・ロックフェラー(石油王・財閥)、A・グラハム・ベル(電話発明家・企業家)、T・ルーズベルト(米大統領)、トーマス・エジソン(発明家・企業家)他、500 人以上の富豪を、20 年に渡り調査した結果をまとめたものである。彼らは何故リッチ(豊か)になれたのか、その秘訣を 15 のポイントに整理しています。 本書が、いわゆるハウツー物と違うのは、「心」(”Thoughts”)が豊かさ、富の源泉であると説いている点です。心が、しっかりとした目的、粘り強さ、そしてそれを金銭的、物質的に豊かになることに結び付けるという燃える願いと一体化したとき、それは強力な力となると述べています。そして、真に豊かになるには、金銭的・物質的富だけではなく、恐れ、嫉妬、憎しみ、復讐心、貪欲、怒りといった心から離れなければならないとしています。金や物だけでなく、心が豊にならなければならない、物・金と心は不可分の関係にあるのです。 本書の初版は 1937 年ですが、その内容は、今も新鮮であり、物心ともに豊になるための秘訣を提供していいます。21 世紀版(21 st century edition)も出版されておりビル・ゲイツやリチャード・ブランソンなどが実例として登場しています。14 のポイントを述べています。いずれも、頭脳、無意識、潜在意識等、心に関するものです。各ポイントの要約と、私のコメントを述べたいと思います。

1. 願望、目標を具体的に、定めることがすべての出発点 (Desire: The Starting Point of All)

第一に、抽象的な願望ではなく、その願望を具体的に定めることが重要。例えば、「金持ちになりたい」ではダメで、いくら稼ぎたいのか具体的な金額で示す、第二に、それに対してどう報いるのか、ただで、あるいは何の代償もなく願望を実現することはできない、第三に、いつまでにその願望を達成したいのか、具体的な期日を定める、第四に、どのように達成するか具体的な計画をたて、即座に実行に移す。言い訳無用。第五に、具体的に定めた願望、目標をメモに書きとめる、第六にそのメモを日に 2 度声を出して読む、その達成した状況を思い浮かべる。 (コメント) 私は、これをすべて実行できたとは言えません。参考になった、部分的に実行したというのが正直なところです。 金持ちになりたいのは誰でも同じことでしょう。しかし、私はこれを読んだ 20 代のとき、いくら稼ぎたいとかの具体的な数字を定めることはしませんでした。それができたらもっとよかったのかもわかりませんが、何か、はしたないという気がしてしまいました。それが私の限界なのかもしれません。しかし、一人前の人間として、経済的に自立しなければいけない、ということは強く考えていました。自立するために頑張る、経済学部を卒業して、サラリーマン、実務家の道を選んだわけですが、国際化といわれるだけに、英語だけは一生懸命勉強しようと思っていました。社会で一人前にやっていけるだろうか、という不安から英語を勉強したという面もあったかもしれません。 現在は、投資に対して、自分なりの具体的な数値目標を定めています。投資額はいくらか、それに対して、何パーセントのリターンを期待するのか。数値を定めると、そこに到達するための具体的な方法、投資対象が浮かび上がってきます。その投資対象は魅力的なものか。それらに投資したときのリスクはどれだけのものか、失敗したときに自分に持ちこたえるたけの余力があるか、他の資産との分散は適度なものか、集中投資するとしたらそれはそのリスクに値する魅力的な投資対象かどうか等について考えます。

2. 目標達成への信念と視覚化 (Faith: Visualizing and Believing in The Attainment of Desire)

願望、目標を自らの無意識に染み込ませるため、願望、目標、目標を達成したときの自分、その達成の方法を思い浮かべ、視覚化する。 (コメント) 願望、目標を具体的に定めるだけでなく、信念にまで深め、視覚化し、無意識に染み込ませること。スポーツでもイメージトレーニングが重要になっているようです。成功したときの自分を思い浮かべる。実業、投資の世界でも同じことが言えるのでしょう。自らの仕事、トレーニングを楽しむ、ある意味では趣味とすることが成功への道と言えるかもしれません。仕事は仕事、余暇、あるいは趣味は趣味と分けることも考え方です。しかし、仕事と趣味が一致すれば仕事も楽しくなり、効率も向上するでしょう。勿論、仕事が趣味で、会社に深夜までいて家庭生活を犠牲にすることになってはいけません。私の場合、経済学的な考え方や実践的な英語力が仕事をするうちに身体に染み込みました。それを習慣化することができました。それをしなければ、何か充実しない気がするようになりました。

3. 習 慣化し てし まう: 無意識 に染み 込ま せる (Autosuggestion: The Medium for Influencing the Subconscious Mind)

願望、目標、それを達成する手段を無意識の世界に染み込ませる。習慣化、自動化する。 (コメント) 目標を定める、手段を決める、そしてそれを習慣化し、無意識に染み込ませる。これができれば、努力も苦ではなくなるでしょう。目標に向かってひたすら実行するのみです。しかし、途中何度も壁にぶつかるでしょう。それをいかに乗り越えるかが重要だと思います。

4. 専 門 的 知 識 を 身に 付 ける : (Specialized Knowledge: Personal Experiences or Observations)

知識には、一般的知識と専門的知識がある。一般的知識は、組織化されなければ金もうけにはほとんど役に立たない。ヘンリー・フォードは初等教育しか受けなかったが、自動車の製造には際立った専門的知識をもっていた。トーマス・エジソンも学校教育は 3 か月しか受けなかったが、恐るべき専門的知識を持っていた。 (コメント) 英語力が専門的知識になるかどうかわかりません。しかし、私の場合、学生時代から英語だけは一生懸命勉強しました。何度も壁にぶちあたりました。壁は 10 以上あったと思います。今でも、ネイティブスピーカーにはやはりなれない、どんなに頑張ってもセカンド・ランゲージということを痛感しています。実践的経済学は、経済学部でしたが大学ではなく、外資系投資銀行に入ってから、アナリスト時代に、激しい競争の中で、身につけたといってよいでしょう。良くも悪しくも、外資系投資銀行業界に入ったのは、英語力があったからだと思います。グローバル化の時代、英語の重要性は益々高まっていると言えるでしょう。

5. イマジネーション:心の働き場所 (Imagination: The Workshop of The Mind)

今日の文明は、イマジネーションの力によって生み出されたといってよい。アイデアは、すべての富の出発点であり、アイデアはイマジネーションの力によって生み出される。 (コメント) イマジネーションというのは、クリエイティビティに関係すると思います。投資銀行というと金、マネーの世界でイマジネーションとは無縁のように思えますが、そうではありません。投資対象をどう見るか、市場が見落としていることはないか、今はダメでも先行きはどうか、ブレークスルー(突破要因)は何か。証券分析、投資というのは、他の人々が感じていないことを感じ取る能力が必要です。分析的なイマジネーションと呼ぶべきものです。

6. 組織的計画: 願望の明確化・行動化 (Organized Planning: The Crystallization of Desire into Action)

人間が生み出したものはすべて願望の産物であり、イマジネーションによって、抽象的なものから具体的なものになる。その際に、重要なのが、明確で、具体的、実践的な計画だ。例えば、ヘンリー・フォードは、自動車事業の生涯にあって、その最初の時、そして、自動車産業のトップにのぼった後にも、一時的な敗北、困難に遭遇することがあった。しかし、フォードは、具体的かつ明確な新たな計画を立て、それらの敗北、困難を乗り越え大いなる経済的成功をおさめた。 (コメント) 行動。これが最も重要でしょう。頭でいくら考えても、実行しなければそれは無に等しい。ひとつの行動、実践は、何百、何千、何万の思考や計画よりも価値があります。考える、そして行動する。投資でも同じです。徹底的に分析してから投資する。それは理想のように見えます。でも、相応な分析をしたら、投資してみる。実行に移す。投資すると、その投資対象への見方、感じ方は異なったものになります。分析も深まります。紙の上、スプレッドシートの上では見えなかったものが見え、感じ取れたりします。「考えてから行動する」のではなく「歩きながら考える」。行動、実践に勝るものはありません。

7. 決定:先延ばししようとする心の克服 (Decision: The Mystery of Procrastination)

ほとんどの失敗の原因は、決定の欠如だという調査がある。富を築くには、迅速かつ明確な決定が必要なのだ。フォードの最も際立った特徴は、迅速かつ明確で具体的な決定することができる能力であった。そして、フォードは一度決めた決定を変えることには慎重だった。 (コメント) 決定するとは、つまり行動することです。行動、実践に勝るものはありません。勿論、決定にあたって、できるだけ、データを集め、調査、分析することが重要です。でも、紙やスプレッドシートの上ではわからないことがあります。完全な調査や分析というものはありません。よく調べた上で、行動する、決定する。するとそれまで見えなかったものが見えてきます。そして、必要なら修正する。決定するということは行動する、ということです。

8. 執拗さ、粘り強さ:信念を生み出す一貫した努力 (Persistence: The Sustained Effort Necessary to Induce Faith)

願望を、金銭的・経済的成功に結び付けるために、執拗さ、粘り強さは、必要不可欠な要素である。ヘンリー・フォードは、冷血で、無慈悲な人物だと一般に誤解されている。この誤解は、フォードの粘り強さからくるものだった。フォードは一度決めた計画を変えることなく、粘り強く、執拗に実行するという性向の持ち主だったのだ。 (コメント) 英語の勉強でもそうでしたし、証券アナリストとしての分析力もそうでした。何事も、行動し、実践していくと必ず困難にぶちあたります。困難にぶちあたってあきらめていたら、何事も身につきません。実践ビジネスに使える英語力を身につけるには、何度も壁にぶちあたり、恥ずかしい思いもしました。屈辱を味わいました。こんなことすらまともに言えないのか、聴き取れないのか、等です。単語や文法的の誤り、文法的には正しいかもしれないが英語的でない言い回し等。しかし、どんなにどんくさくてもあきらめない。粘り強さが大切です。 外資系証券アナリストとして駆け出しの頃、東京の営業マンからつるし上げを食いました。「こんなリサーチで営業できるか」と。ロンドン、ニューヨークのデスクはそうでもありませんでしたが。バリュエーション(株価評価)、投資のタイミングについては適切な分析ができたと思いました。会社予想をベースに、前提条件をチェックし、その感応度から収益予想を出しました。また、ある商品価格が株価の先行指標となることに注目したのです。しかし、収益モデルは、今から考えて、不十分なものでした。証券アナリストの収益モデルは、セクターにもよりますが、基本的にボトムアップで説明することが求められるのです。窮地に立たされました。もう辞めるしかないのだろうか、と何度も思いました。ただ耐える、それしかありませんでした。私をスカウトしてくれた英国人のリサーチ・ヘッドが私のデスクに来て、スプレッドシートをつかって、収益モデルを修正し、手ほどきしてくれました。 私が、その窮地を逃れることができたのは幸運でした。欧州の多くの投資家が私のレポートで大量の発注をしてくれたのです。

9. 心、思考の力:原動力 (Power of The Master Mind: The Driving Force)

経済的成功のために、心の力は、必要不可欠である。具体的な行動に移さなければ計画は無に等しい。誰もが、金持ちになりたいと思うであろう、しかし、明確で、具体的な計画と富への燃えるような欲望が、富を築く上で唯一の確実な方法であることを知る人は少ない。 (コメント) これも、ひとつの行動、実践は何百、何千の考えよりも重要であることを述べています。そして、その行動を生み出すのは心です。心が行動を指令するのです。行動を促す心の働き、そのことを述べていると思います。

10. 性欲の転化の秘密 (The Mystery of Sex Transmutation)

25,000 人への調査で、発見したことは、男は 40 才未満で、圧倒的な成功をおさめた人は極めて稀で、ほとんどは、50 才を越えてからということである。この事実から得られる仮説は、彼らはエネルギーを肉体的な欲望、つまりセックスに費やしているからではないか、ということである。セックスは、人間の欲望の中で、最も強く、圧倒的なものである。この欲望が他のもの、例えば富の蓄積への欲望へ転化されたとき、それは強力な力となる。 (コメント) これはフロイト的な考え方が影響しているのでしょう。しかし、多分正しい見解だと思います。セックスの欲望は、食欲と並んで人間の最も強い欲望でしょう。でも食欲は、生きる以上不可欠です。となれば、他の目標に振り向けられるのは性欲のエネルギーだろうと。確かに、マックス・ウェーバーは、資本主義の精神とプロテスタンティズムの世俗的禁欲には深い関係があるという主張をしています。禁欲が、資本主義を生み出した源泉であると。もっとも、今日では、20 代、30 代の企業家、富豪が表れています。時代がすすみ、若いうちから、事業に欲望を振り向けることが多くなったということでしょうか。

11. 潜在意識 (The Subconscious Mind: The Connecting Link)

潜在意識の心に影響を与え、できるだけコントロールするで、無限の知恵、知性の力を引き出すことができる。人間には、7 つポジティブな感情がある。それは、願望(desire)、信じる力(faith)、愛情(love)、セックス(sex)、熱中(enthusiasm)、ロマンス(romance)、希望(hope)である。一方、7 つの避けるべきネガティブな感情がある。それは、恐怖(fear)、嫉妬(jealousy)、憎しみ(hatred)、復讐心(revenge)、貪欲(greed)、迷信(superstition)、怒り(anger)。 ポジティブな感情が心を支配するようにすることが重要である。 (コメント) ここは、私が本書の最も好きな部分です。人間には、生来、ポジティブな感情とネガティブな感情があると思います。しかし、恐怖、嫉妬、憎しみ、復讐心、貪欲、迷信、怒りから離れることで、心が明るく、豊かになり、周囲に良い影響を与え、より生産的な活動、富の蓄積へエネルギーをふり向けることができるのです。他の成功を喜ぶことはできるようでできない、人間は弱い者をみて可哀想と思い、やさしくなれるかもしれないが、他人の成功をみて、それを喜ぶことは意外に難しいのではないでしょうか。でも、それができる人こそ、豊かな心を持っている、そして富への願望を持ち、実行することで物質的にも恵まれるということなのでしょう。貪欲も避けるべき感情としています。つまり、富への願望は貪欲とは異なるということになります。金銭的な富を築きたいのであれば、貪欲を捨てよ、といっているのです。これは、相場の格言「見切り千両、損切り万両」に近いといえるでしょう。逆説的ですが、投資で儲けるためには(貪)欲は捨てなければならないのです。

12. 頭脳:心、思考の受信機 (The Brain: A Broadcasting and Receiving Station for Thought)

人間の頭脳は、思考の発信器であり、受信器である。 (コメント) これはこれまでの総括といってよいポイントです。ナポレオン・ヒルは執拗に、頭脳の働きの重要性を言葉を変えて述べています。つまり、頭脳こそ、これまでのポイント、つまり、願望、信念、習慣化、専門知識、イマジネーション、行動、決定、粘り強さ、思考、性欲の転化、潜在意識のコントロールの源泉であるとしていると思います。つまり、心こそが行動の源泉であり、金銭的、物質的、精神的な豊かさのもとであると。物と心は二つであって一つなのです。仏教に物心一如という言葉がありますが、ナポレオン・ヒルの主張もこれに近いように思います。

13. 第六感:智慧の宝庫への扉 (The Six Sense: The Door to The Temple of Wisdom)

第六感によって、無限の知恵、知性が自動的に自分に働きかけるようになる。これは、これまでの 12 のポイントを習得してできるようになる。 (コメント) これも頭脳の働きの繰り返しのように感じますが、恐らく、悟りの境地までに到達したような心のあり方をいうのでしょう。古来から、人間社会の頂点は、祭祀者が形成してきた、といえる面があるかもしれません。最高の権力者であり、最高の富を持ち、人々に頼りにされ、支持され、心によって人間社会を統治するようなあり方でしょう。

14. 6つの恐怖の克服 (How to Outwit the Six Ghosts of Fear)

第六感の働きを妨げる、つまり富を築くのに妨げる心の働きは、次の 6 つの恐怖である。 つまり、貧しさへの恐怖、批判への恐怖、病気・不健康への恐怖、誰かの愛の喪失への恐怖、老いへの恐怖、死への恐怖。これらの恐怖から逃れることが重要。つまり、心をコントロールすること。 (コメント) ナポレオン・ヒルはここでも、物質的、金銭的富を築くのに妨げになるものとして、心の問題、6つの恐怖を上げています。貧しさ、批判、老、病、死、別離への恐怖です。これらの恐怖は、人間の生産性を著しく低下させ、富の形成を妨げるのです。これらの恐怖から免れるにはどうしたらよいのでしょうか。それは、利他に生きるということなのかもしれません。それは簡単なことではないかもしれません。しかし、そう努力することによって小さな自分、自我から離れ、大きな器になれる、恐怖から自由になれるのかもしれません。

2014.12.3

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