‘経済・投資 Money’ カテゴリ
ケインズの投資について-15 1937年後半の市場見通し-3 Keynes’ Investments-15 His views on the market in later 1937-3
2025-05-12
売却を進め、借入金を減らす - 37年後半
株式市場が変調を来す中、1937年後半、借入金へのカバーの増額を要求されるにいたった。ケインズは、借入金を減らすこともあり、証券の売却を進めることになる。借入残高は36年末の約30万ポンドから37年末は19万ドルへ減少する。健康を害したこともあるのだろう、その後、ケインズは、借入金を基本的に順次に減らしてゆき、借入残高は、40年末には6万ポンド、逝去する46年には3.8万ポンドとなった。
38年11月16日に、ケインズは、自ら役員を務めるナショナル・ミューチュアルのレックネル(G.H.Recknell)に次のように述べている。
勿論、売るべき時は今年の春でした。しかし、それは結果論であり、察知することは難しかったといえます。8月までには市場の下落基調が明らかになってきましたが、なお、売却は遅きに失するということはありませんでした。しかし、1... → 続きを読む
ケインズの投資について-14 1937年後半の市場見通し-2 Keynes’ Investments-14 His views on the market in later 1937-2
2025-05-11
実体経済を写す以上に下落した市場価格 - ケインズの見方
1937年の景気後退による市場価格の下落についての見方を示している。「実体経済を写す以上に下落した市場価格」という見方はバリュー投資家としてのものである。そして、下落のゆえに、「イールドは保険に入っているに等しい」という趣旨を述べている。そして、金の非不胎化による、金融緩和、利下げを予想している。
バリュー投資家の本領
経済学者であると同時に、バリュー投資家、コントラリアンである、ケインズの資質、本領をフルに発揮しているといえるだろう。
余談だが、とはいえ市場価格の下落は、ケインズの心臓に良い影響を与えてはいないだろう。
[F.C.スコットへの手紙(37.9.4)の続き]
市場が過熱した状況で、流動性選好が高まるのは、市場が楽観的すぎるという警戒からです。但し、市場がおかしやすい間違いは、過度に悲観論に陥り、実体を反映す... → 続きを読む
ケインズの投資について-14 1937年後半の市場見通し Keynes’ Investments-14 His views on the market in later 1937
2025-05-10
1937年後半の市場見通し
ケインズは、その2日後、F.C.スコット宛に自らの見解を療養中のウェールズ、ルーチンから送っている。(ケインズは、36年夏より体調が優れず、37年半ばに心臓発作で倒れた。46年に同じく心臓発作で亡くなるまで、ケインズは心臓病に悩まされた。)
流動性選好、リスク回避の傾向を強める市場
F.C.スコットへの手紙 (1937年9月4日)
親愛なるスコット、
順調にいけば今月末にここを発つ予定です。10月末の役員会に出席するつもりです。ナショナル・ミューチュアルの役員会が水曜にあるので、木曜であれば良いな、と思っています。
とりあえず、見通しを大幅に変更しているので、その内容を要約してお伝えしたいと思います。
私は深刻なりセッションにはならないだろうと予測しています。米国では、今秋か来春には景気が回復することが期待されます。英米において、モーメンタムを欠く... → 続きを読む
ケインズの投資について-13 コモディティー投資 3 Keynes’ Investments-13 Investment in Commodities
2025-05-07
試練の年 - 1937年後半
1937年後半は、ケインズにとっては試練の時となった。ケインズは引き続き、強気の立場をとったが、商品相場での損失額は膨らんだ。7月半ばにR.F.カーンに次のように述べている。
現状売却することにあまり前向きではありません。もっとも米国のポジションを少々減らす機会がおとずれるかもしれないと期待しています。(ウォール街の連中のように下落する市場で利食っていくことができれば。) それが彼らがリッチである理由ですから。
ベアマーケットは通常は好機 - しかし・・・
8月下旬になってケインズはより悲観的、手仕舞いの気分になり、カーンに次のように言う。
これまで、リセションの時には、辛抱強く待つことにしていました。カバーポジションを取ってさえいれば、後は待つのみ、と考えてきました。カバーポジションが安全と思えるなら、何ら煩うことはない。しかし、今回については、そ... → 続きを読む
ケインズの投資について-12 コモディティー投資 2 Keynes’ Investments-11 Investment in Commodities
2025-05-03
コモディティー投資 その2
株の次に、商品で儲けたケインズ
ケインズが、生涯で一番儲けたのは証券投資である。それは生涯投資所得の約86%に及ぶ。 次に設けたのがコモディティ投資であり、それは生涯投資所得の約9%になる。
特に、1936年は好調でコモディティーで、生涯最高の3万6000ポンド稼いでいる(所得ベース)。37年は8000ポンド程の損失だ。
商品相場(ラード)の読みの一端
ケインズは、前述の手紙の約4か月後の10月26日、再びR.F.カーンに次の書簡を送っている。ケインズのラード(豚油)、ホッグ、ライトホッグ(豚)の需給、相場の読みの一端をうかがうことができる。
R.F.カーンへの手紙(1937年10月26日)
前年1936年10月に予想したことが今起きています。但し、供給不足は、ラードが他の豚製品に比べて割安なので、その生産を可能な限り抑えているためです。生産は、通... → 続きを読む
ケインズの投資について-11 コモディティー投資-1 Keynes’ Investments-10 Investment in Commodities
2025-05-01
コモディティー投資-1
一般理論の利子論、貨幣論の形成に寄与したコモディティーへの投資
ケインズはコモディティーへの投資も積極的に行った。コモディティーへの投機・投資の経験、及びそこから得られた洞察は、ケインズの一般理論に見られる理論形成に多大な影響を与えていると思われる。それは何よりも、貨幣の特性、つまり、一般理論の中核をなす、「流動性プレミアム」のクローズアップにある。そして、その流動性プレミアム(liquidity premium)は、貨幣の歴史の初期において貨幣の役割を果たしたコモディティーとの比較によって、浮き彫りにされているのである。
ケインズの詳細なコモディティー・リサーチ
ケインズは、コモディティーの需給動向に関する詳細なレポートを、1923から30年にかけて作成している。需要と供給は経済学のエッセンス中のエッセンスである。その意味で、ケインズが、他の財と異なり、品... → 続きを読む
ケインズの投資について-10 米国証券投資 Keynes’ Investments-10 Investment in US Securities
2025-04-18
36-37年 生涯最高の稼ぎ
米国経済の回復
1936年、37年の2年は、前述したようにケインズの生涯でもっとも証券投資で儲けた年だ。一般理論の出版が1936年なので、理論と実践が結実した象徴的な年となった。勿論、良好なパフォーマンスの背景には世界経済の回復に伴う株式市場のリカバリーがある。
株式、商品で大きな利益 - 36年
36年は、為替・商品、証券投資共に好調で、為替で£12,362、商品で£36,009の利益を計上。証券投資は、ポンド証券で£30,169、ドル証券で$92,432(≒£18,560)の売却益を上げる。配当所得も£11,795、$19,219(≒£3,859)に及んだ。商品で£36,009と大きな利益を上げる。合計で約£113,535になる(£/$=4.98で換算)。“Currency converter 1270–2017” (nationalarchi... → 続きを読む
ケインズの投資について-9 米国証券投資 Keynes’ Investments-9 Investment in US Securities
2025-04-11
投資会社役員会の運営
イギリス人的皮肉
ケインズの前述33年11月23日の手紙に対して、F.C.スコットは、ケインズが同意しなかったという1930年以前の失敗した米国証券への投資に対して、当時、「君が反対したという記憶はないが」と皮肉混じりに答えている。そして、とにかくより重要なことは、これからどうなるかであって、現状、不確実性の高い米国市場(証券)から撤退することを少しも惜しいとは思わない、とイギリス人らしい、遠回しの皮肉な表現でケインズに伝えている。これに対してケインズは次の手紙をF.C.スコットに送っている。
運用方針の重要性 - 反対意見を尊重する
投資決定の役員会の運営におけるコミュニケーションの難しさを示している。ケインズは、自分の記憶では反対したことが、相手には伝わっていなかった。但し、ケインズは、投資会社の運営において重要なことは、運用方針の維持、継続であると述べ... → 続きを読む
ケインズの投資について-8 米国証券投資 Keynes’ Investments-8 Investment in US Securities
2025-04-08
米国証券への投資
ケインズは、1929年のニューヨーク市場の大暴落以降、むしろ米国証券へ積極的に投資した。プロヴィンシャルの中で、低迷する米国証券への投資に懐疑的な意見があった。それに対する反論が下記の書簡だ。この書簡から読み取れるのは、この段階(1930-33年)では、株式よりも、優先証券、カバードボンド*などが中心だったことだ。大恐慌からのリカバリーが不透明で、不確実性が高い中、ストレートな株式よりも、優先証券や、担保価値に着目した投資を採用したといえる。
イールドと資産価値に着目したバリュー投資
ここで示されたケインズの投資手法は、イールドと資産価値に着目した、バリュー投資であるといってよいだろう。
* カバードボンドとは、欧州発祥の担保付社債の一種で、住宅ローン債権などの極めてリスクの低い資産のプール(カバープール)を担保として発行される。投資家は発行体のデフォルト時に、発... → 続きを読む
ケインズの投資について-7 金鉱株投資 Keynes’ Investments-7 Investment in Gold Mining Shares
2025-03-05
上昇後も継続保有を主張
ケインズは、さらに8日後の8月23日にスコットに金株についての書簡を送った。スコットからの手紙(15日、16日)に対する返信だ。ここでケインズは、金鉱株(gold mining shares)と呼ばず、金株(gold shares)と言っている。分かりきったことだから省略したのだろうが、金の価値に着目していることを示している。南ア企業の中でも、ユニオン・コーポレーションの経営陣は、その価値を実現することにひときわ優れていると評価しているわけだ。かなりの上昇後も優れたイールドであり、継続保有を主張している。
市場の変動に振り回されるな
本書簡で、ケインズは、保有金鉱株について、①相当株価は上昇したが、なお、利回り(イールド)の観点からなお魅力あること、②1929年のニューヨーク株式市場大暴落の後、ルーズベルト大統領がニューデール政策により金本位制を一時的に停... → 続きを読む
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