バリュー投資入門(13)バフェット2008(5)現金は王様か愚者か

中湖 康太

現金は王様か愚者か(“Cash is king or loser?)

バフェットとキャッシュの二面性

投資活動についてのコメントでバフェットは矛盾したことを言っている。以前、わたしは「経済においては賢明さは愚劣さの裏返し、同じコインの表裏である」と述べた。以下のバフェットの言葉は、まさにバフェットの二面性を表している。

安眠のために十分なキャッシュを持つ。しかしそれに安住するのは愚

つまり、キャッシュこそキング(王様)だといい、十分なキャッシュを持ち、安眠することを重視すると言いながら、同時にキャッシュに安住している者は愚かだ、と述べている。これはいずれも真理であると言えるだろう。

バフェットのこのような株主への説明は、自らに対する戒めと言っても良いだろう。

脱線するが、わたしはバフェットの投資スタイルの本質は、ケインズのそれと共通点があると思っている。

このような矛盾した投資や株式市場に対する見解はケインズにもある。ケインズは株式市場を美人投票に例えた。一方、ケインズは株式の長期投資で大もうけした。

バリュー投資の本質

ケインズは次のように言った。

「長期的には我々は死するのみ」(“In the long-run, we are all dead.”)

しかし、ケインズは長期投資で儲けたのである。ケインズはバリュー投資家だったのだ。

ここで再び、バフェットが師とあおぐバリュー投資の権威ベン・グレアム(Benjamine Graham)の言葉を引こう。

「市場は短期的には投票機であるが、長期的には計量機である」( “In the short-run, the market is a voting machine; in the long-run, however, it becomes a weighing machine.”)

国債バブル

次に、注目すべきは、バフェットがゼロないしほとんどゼロ金利の国債バブルについて言及していることだ。このようなバフェットの言葉に呼応するかのように、米国は経済の活性化とともにいち早く金融正常化に舵を切ったのだ。

日本ではイールド・カーブ・コントロールというような頭でっかちのコンセプトをもち込んでしまったために事を厄介にしてしまった感がある。QQEは歴史的な成功をおさめたわけであるから、それでさやをおさめておけばよかったのである、というのがわたしの意見である。

話がやや脱線した。

以下は、バフェットの言葉の抄訳(中湖)である。小見出しはわたしがつけた。

投資活動 (Investments) – Part 2 

良かった点:株式権利付のブルーチップ企業の高利回り社債

良かった点について言えば、Wrigley、 Goldman Sachs、General Electricの固定利付債券を145億ドル購入したことだ。金利が高い上に、かなりの株式の権利が付与されている。但し、これらの債券の購入のために、Johnson & Johnson、Procter & GambleやConocoPhillipsなど本来売却したくなかった株式を売却した。

十分なキャッシュを持ち、安眠を重視

十分以上なキャッシュ・ポジションをもってバークシャーを運営することは私の方針である。債務を果たすのに親切な誰かの力をあてにするということは決してしたくない。追加的な利益を得るために、たとえ一夜の安眠たりとも犠牲にしたくない。

過小評価と過大評価

投資の世界は、過小評価から過大評価のリスクへとシフトした面がある。それは、米国債の高騰であり、短期債の利子はほとんどゼロであり、長期債のそれも申し訳程度のものだ。一方、格付けの高い社債が数年前では考えられないような金利がついている。

この10年の金融市場の歴史は、1990年代のインターネットバブル、2000年代の住宅市場のバブルに加えて、2008年の異常な国債のバブルについて書くことになるのではないだろうか。

現金同等物や現在の金利水準で長期国債に長くしがみつくことは愚かなことだと思う。金融危機の真っただ中の状況にあっては、それが独りよがりだったとしても、心地良いことだろう。

偉大な動きはあくびをもって迎えられる

「キャッシュ(現金)こそ王様だ」(“Cash is king.”)と評論家たちが叫べば、その保有者は自己満足するだろうが、そのキャッシュはほとんど何も稼がず、時の経過とともに購買力を失うだろう。

評論家の承認を得るのは投資の目的ではない。実際のところ、それは生産的ではない。思考を低下させ、新しい事実の発見や、結論の再評価を鈍らせるのだ。称賛を得る投資活動には警戒せよ。偉大な動きは通常、あくびをもって迎えられるのだ。

http://www.berkshirehathaway.com/letters/2008ltr.pdf

2018/10/10

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