バリュー投資入門(5)バフェット2017(5)

中湖 康太

5.  バークシャーの買収活動 (上)

バフェットはバークシャーの事業、買収活動とその方針について説明しています(ブルーはバフェットの説明の要約。中湖訳)

バークシャー事業の4つの構成要素

バークシャーの価値を高める構成要素は4つある。(1)大型の独立した個別事業の買収、(2)既存事業の競争力を高める追加的買収、(3)既存事業の内部成長(売上増、利益率改善)、(4)バークシャーの巨額の株式、債券ポートフォリオからの投資収益。

買収検討の5つのキーファクター

新規の個別事業の買収にあたってのキーファクターは、①持続性のある競争優位性、②能力があり質の高い経営陣、③事業を運営するにあたっての純(有形)資産に対する高いリターン、④魅力ある内部成長の機会、そして⑤妥当な買収価格、である。

株価高騰で買収の機会が減少

2017年に検討した買収の全てにおいて⑤のファクターが障壁となった。際立ってすばらしい言えないまでも、着実に事業を行う企業の株価が最高値を記録したからである。実際、価格は楽観的な買収者にとってはあまり気にならなかったように見える。

CEOの自己満足のための買収

なぜ買収の熱狂が起こったか? というのはCEOの仕事というのは、自分ができるタイプの事業を見つけて買収する、自己満足的なものになっているからだ。ウォールストリートのアナリストや取締役がCEOに買収を促すのは、さかりのついたティーンエージャーに落ち着いたセックスライフをおくりなさいとアドバイスしているのと同じである。

報酬とフィーの匂いに部下もバンカーも熱狂

一旦、CEOが買収熱にとりつかれると、買収を正当化するためにどのような予想でもできてしまうものだ。部下たちは企業のサイズがふくれるのにしたがって増加する報酬や事業領域の拡大に喝采を贈るだろう。投資銀行のバンカーたちは莫大なフィー(手数料)の匂いを嗅いで拍手喝さいをおくるだろう。(床屋にヘアカットする必要があるかどうか聞くの愚の骨頂である)もし過去の買収のパフォーマンスが 買収を正当化できないなら、「シナジー」という都合のよい言葉を使えば良い訳だ。スプレッドシートの数字はどうにでもつくれるからだ。

安い負債が火に油を注ぐ

異常に安い負債がたっぷりと供給される2017年の環境は、買収活動を煽ることになった。結局のところ、割高のディールであっても負債を使って行われれば、一株当たり利益EPSを高めることになるからだ。

バークシャーは買収にレバレッジ(負債)を使わない

だが、バークシャーにおいては、買収はすべて株式を基礎として評価する。というのは我々はレバレッジを使うことは好まないし、大きな負債を個別の事業に使うことは一般的に言って誤りに陥りやすいからだ。いくつかの例外は、クレイトンの貸付のポートフォリオと規制ユーティリティ事業における有形固定資産に充てられたものだ。我々は、決してシナジーを含めない。

レバレッジへの嫌悪はリターンを低めたが安眠できた

我々のレバレッジへの嫌悪はリターンを低くしてきた。しかし、チャーリーも私も良く睡眠をとることができた。我々は、持つ必要がないものに持っているものをリスクにさらすのは正気の沙汰ではないと信じているからである。我々のこの見解は50年前に、我々を信頼してくれる友人や親類が提供した資金を基にパートナーシップを組むときに共有した。今日、100万超のパートナー(株主)がバークシャーに加わった今も持ち続けている。

買収の好機を辛抱強く待つ

最近の買収案件の枯渇にも関わらず、チャーリーと私は時々、バークシャーは大きな買収を行う機会を持つだろうと信じている。当面、我々はこのシンプルなガイドラインに従うことにする。他の人たちが彼らの事柄を慎重さに欠けて行ったとしても、私たちはより大きな慎重さを持って私たちの道を行くだけである。

安眠を重視

以上、バークシャーの買収は、レバレッジを用いないため、バイアウト・ファンドのそれとは著しく異なる保守的なものであるということが分かります。個人投資家に参考になる発想であり、スタンスであると言えます。特に、株式市場がいかに変動しても安眠できることを選択することはポイントでしょう。バフェットが50年以上にわたって投資活動をできるのも、このスタイルが精神的にも、肉体的にも彼にフィットしているからだといえるでしょう。

<< 愚鈍なる ことを厭(いと)わず 慎重に しかもしたたか 高い収益 >>

<< リターンより 安眠とるも 記(しる)さるる アウトパフォーム バフェットの流儀 >>

これがバフェットの流儀といえます。

但し、投資先企業のレバレッジは妥当な場合もある

ひとつ言えば、ウォールストリートのレバレッジを使った買収をすべてCEOの自己満足、投資銀行のフィー稼ぎとみるのも言い過ぎといえるでしょう。彼の基本的な主張をわかりやすくクリアに述べただけでしょう。機をとらえるアントルプルナーシップ、企業家精神、ベンチャースピリットを反映したものもあると思います。

自らはエクイティベースで投資をする。しかし、投資対象のレバレッジが、成長分野の取り込み、資本リターンを高めているのであれば、それはむしろ望ましい場合もあり、オルタナティブ投資の一形態といえるでしょう。これは筆者の意見です。

要は株価が彼の目線からすれば高い。それがバフェットが言いたいことでしょう。

2018/8/2

© kota nakako, gcs

Copyright© 2024 株式会社ジー・シー・エス(GCS) 中湖康太 経済投資コラム All Rights Reserved.