アナリスト出門甚一の冒険 村岡ファンド

その日、出門はセールスの房田祥子と大手町からタクシーに乗り、内幸町の村岡ファンドのオフィスに向かった。房田はいう。

― ラジオ局の東亜ラジオについて出門さんの見方を説明していただけますか。

出門は通常、大手の機関投資家に対して説明することが多い。房田祥子のアレンジで独立系の村岡ファンドの代表村岡昭三と会うのが楽しみだった。出門は房田に言った。

― 房田さん。このミーティングをセットしてくれてありがとう。面白そうだね。村岡ファンドはやはり目のつけどころがいいね。

村岡ファンドは、もの言う株主として話題になっていた。ジャパン・テクスタイルの株を買い占め、株主として、遊休資産を売却して配当を増やすように要求していた。ジャパン・テクスタイルの株価は低迷していた。本業は、国際競争力のなさから先細りとの見方が広がっていたのである。村岡ファンドの代表である村岡昭三は、経営陣に遊休資産を活用できないのならば、株主に還元すべきだと要求していた。株価は解散価値のわずか30%程度にすぎなかった。解散価値は、今、会社を解散した時に株主が手にすることができる価値をいう。株価が解散価値より低いと言うことは、簡単に言えば、今、会社をたたんで株主に現金をわたした方が良い、ということを意味した。

村岡ファンドの登場により、ジャパン・テクスタイルの株価は20%程度上昇した。しかし、なお解散価値の50%ディスカウント、割安である。房田によれば、今、村岡ファンドの矛先は、東亜ラジオに向かっているというのである。

東亜ラジオは、昨年ヤマト証券が主幹事となり上場していた。出門が東亜ラジオに注目したのは、その売り出し価格が出門が推定した適正株価を大幅に下回っていたからである。東亜ラジオの売り出し価格は、ラジオ局としてだけの評価であるといえた。その妥当性が、株式市場で試されることになる。

東亜ラジオは、ラジオ局であるが、非上場の地上波キー局のベイブリッジテレビの筆頭株主であり、その40%を保有していた。ベイブリッジテレビは来年に上場を計画していた。出門は、東亜ラジオの上場が発表されて以来、その売り出し価格がどうなるか注目していた。放送法により20%の外資規制があるため、東亜ラジオの上場は国内募集だけであった。

出門が不思議に思ったことは、東亜ラジオの売り出し価格には、ベイブリッジテレビの価値が反映されていないことだった。少なくとも出門の推定によればである。村岡昭三が東亜ラジオに注目したということは、東亜ラジオの株価について、出門と同じ見方であるということを暗示していた。

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