IRRとPME問題への新しい解決策 (JAI Spring 2017)

中湖 康太

「IRRPME問題への新しい解決策としてのERTC」インデン・ジャン、投資オフィサー、ワシントン大学投資管理会社(ワシントン州シアトル) “Introducing Excess Return on Time-Scaled Contributions: An Intuitive Return Measure and New Solution to the IRR and PME Problem”. Yindeng Jiang, an investment officer at the University of Washington Investment Management Company in Seattle, WA. jiangyindeng@gmail.com, JAI Spring 2017

 本研究は、非流動的なオルタナティブ投資のパフォーマンス指標に関するもの。問題を抱えつつ、その利便性のゆえに使われるIRRにかわる、直感的にわかりやすく、理論的に適正な指標を提示している。 誤解を恐れずポイントを記し、若干の私見を述べる(詳細、正確には原典参照のこと)。

問題点を指摘されながら使われるIRR

 内部収益率(IRR)は、プライベート・エクイティ、ベンチャー・キャピタル、プライベート不動産投資といった非流動的な資産の投資パフォーマンスの評価に、学界、実務界で広く使われている。IRRは、キャッシュフローの貨幣加重リターン(MWR: Money-Weighted Return)を提供するとされている。

 しかし、多くの研究文献は、IRRアプローチの問題を指摘している。(i)複数のIRRが生じる場合があり、どのIRRが経済的に適正な収益率か不明確なこと、(ii)本来のIRRが存在しないかもしれないということ、(iii)プロジェクトの採択の可否やランキング付けの決定においてNPVに一貫性が無いこと、(iv)価値加法性(ポートフォリオ資産の価値は、個々の資産の価値の合計である)が約束されないこと。

AIRR(Average Internal Rate of Return:平均内部収益率 )

 こういった問題点があるため、IRRの問題点を解決するための多くの研究がなされてきた。そのうちの一つがAIRR(平均内部収益率: Average Internal Rate of Return)である。本研究では、収益率を、インカムの総計を資本の総計で割ったものと定義した。貨幣の時間的価値を考慮して、両者とも現在価値で評価した。そして、全てのIRR問題の解決策としてAIRRを提示した。しかしながら、一般的なAIRR指標は、資本価値(capital values)が明らかなものという前提にたっている。したがって、非流動的な投資には直接適用可能ではない。

 類似のアプローチとして総投資収益率(AROI: Aggreage Return On Investment)がある。これは、時間価値で割り引いていない資本価値とキャッシュフローを基礎にしており、また、資本価値が判明していること前提としている。

PME( Public Market Equivalent:公開市場同等物)

 別のアプローチとして、いわゆる公開市場同等物(PME: Public Market Equivalent)分析がある。PMEIRRを使っていない。しかし、それは超過リターンに代って、ベンチマークに相対した総合的な価値の生成の指標であり、PME問題は、可変的な資本コストを持つIRR問題であるといえる。

理論的適正かつ直感的にわかりやすい代替指標

ERTC(Excess Return on Time-Scaled Contribution 時間価値を考慮した超過リターン) ー 理論的に適正で直感的なERTCに基づく指標

 本研究は、ERTC(Excess Return on Time-Scaled Contribution 時間価値を考慮した超過リターン)に基づく連続的AIRRを示した。この指標は、理論的に優れており、また直感的に理解しやすい。これは、精緻な解決策であると共に、スプレッドシート型のプログラムに簡単に適用できる。さらに、ERTCを含む少なくとも12の代替的なAIRRAROI指標を提示する。

 これらの指標はすべてERTCの分解過程を利用しており、価値測定にあたっての一貫性、すなわち価値の加法性と市場価格との一貫性、を保証している。どの指標を選ぶかは、資本価値の成長についての経済分析と実証的検証に基づく前提に部分的に依存している。 一方、もし経済分析と実証的検証が明確な選好を示さないときは、その直感的な理解しやすさ、簡単さ、一貫性のゆえにERTCを使うことを薦める。

 分解過程からのひとつの重要な示唆は、その前提のいかんに関わらず、キャッシュフローは、資本価値(又はリターン)に転換される前に、分解される必要がある、ということである。これは、プライベート・エクイティ・ファンドなどのポートフォリオのリターンを計算する際に特に重要になってくる。ポートフォリオやファンド・レベルでのキャッシュフローだけでは十分ではない。投資の構成要素についてのキャッシュフローが、価値加法性を満たすために必要である。

 最後に、以下の分野が興味深く、今後の研究課題であることを示す。①キャッシュフローベースの資本成長についての代替的仮定、②本研究では扱わなかった全キャッシュフローベースのAIRRAROI指標の特徴、③本研究で示した分解過程に代る、資本価値がユニークに決定され、IRR指標での負のキャッシュフローの問題を克服した手法があるかどうか。

若干の私見 - 多面的に評価する

 IRRの問題点は言い尽くされている。しかし、なおその実務的利便性から利用されている。投資の評価、選択にあたってはNPVを使えというのがセオリーだ。しかし、NPVにも実務上の問題がある。それは、投資案の比較や、各種金利指標との比較が簡単にできないことだ。PMEも利便性に優れるが、あくまで実務的に大まかな判断指標である。本研究で示されたERTCに基づく指標は、プライベートエクイティ、ベンチャーキャピタル、プライベート不動産など非流動的な代替投資の適切なパフォーマンス評価である、との印象を受けた。

 ただし、インダストリーのスタンダードになるには、時間がかかるかもしれない。また、唯一無二で絶対的に正しい指標というものは存在しない、といっても良いだろう。いずれにしても、投資の評価にあたっては、ひとつの指標だけでなく、理論的妥当性、実務的利便性、比較可能性等の観点から、いくつかの指標を組み合わせて行うことが必要であろう。少なくとも本研究で示された方法は、投資の評価にあたって適正な指標のひとつとして興味深い。

以上

2017.6.20

 

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