LBOファンドのリターンに関する一分析 (JAI Spring 2017)

中湖 康太

「より正確な検証が可能なバイアウトファンドのリターンについての一分析」ジェフリー・フック上席講師、ジョンホプキンス・カーリー・ビジネス・スクール (”An Analysis of Returns of Moderately Aged Buyout Funds with Low Residual Values”, Jeffrey Hooke, Steven Hee, and Ken Yook; JAI Spring 2017)

Jeffrey Hooke is a senior lecturer at the Johns Hopkins Carey Business School in Washington, DC.  jhooke1@jhu.edu
Steven Hee is a student at Yale University in New Haven, CT.   stevenhee1@gmail.com
Ken Yook is a professor at the Johns Hopkins Carey Business School in Washington, DC. kyook@jhu.edu

 LBOファンドのリターンに関する一分析。簡単にその要点をまとめ、若干の私見を述べたい (詳細、正確には原典参照のこと)。

 LBO業界も競争の激化によって公開株式市場に対するプレミアムリターンが減少している可能性を示唆している。超過リターンは、収穫逓減の原則により低下するのは当然予想されるところ。大型ファンドがより良いリターンを稼ぎ出している。ターゲット企業へのアクセス、交渉力等の規模のメリットが働いているためであろう。バイアウトファンドへの投資に当っても、優れたマネージャーの発見、選択が最重要と言えよう。

集まる資金と競争が激化するバイアウト業界

 プライベート・エクイティは過去数10年で人気が著しく高まった。プレキン(Preqin)によれば、バイアウトファンドは、2015年に1520億ドルの新規資金を集めた。PE活動が活発になるにつれ、競争が激化し、同時にPEファンドの投資パフォーマンスへの関心が高まった。

2000-2007年のLBOファンドにフォーカス

 本研究は、LBO業界のリターンについて新たな情報を提供するものであり、ファンドレベルでのリターンを検証することで、ヴィンテージ毎にリターンを集計して検証した先行する研究とは異なっている。さらに本研究では、2000-2007のヴィンテージ期間に対象を絞ったことも特徴となっている。それには2つの理由がある。第一に、あまり競争が激しく無かった2000年以前のLBOファンドを除くこと、第二に、2007年以降のファンドを対象から外したこと。これらのファンドは2015年時点で売却されていない投資を多く含んでおり、基本的にマネージャー自己評価によるRVPIを基にリターンが報告されているためである。

 本研究は、主として完全に現金化された、あるいはポートフォリオ構成企業を現金化する機会のあった古いLBOファンドを扱っている。このようにして、投下資本収益率の計算は、ファンドマネージャー自身が行うRVPIResidual Value to Paid-in:残余価値/払込出資金倍率)に依存することなく行うことができる。

 研究対象とするファンドを15年以上(2000年より前に)さかのぼることをしなかった。評価期間(2000-2007)について、プレキン・プレミアム・データベース(Preqin premium database)から完全なキャッシュフローデータのある186のファンドを対象とした。

LBOファンドのベンチマーク: S&P500+3%

 前期ヴィンテージ(2000-2004)のファンドは、株式市場ベンチマークに対して、後期ヴィンテージ(2005-2007)ファンドよりも、より良いパフォーマンスを示していることを発見した。後期ヴィンテージ(2005-2007)のファンドの半数以上が、LBOファンドの一般的なベンチマークといえるS&P500+3%よりもパフォーマンスが悪かった。後期ヴィンテージのファンドは、RVPIがより大きくなっており、総資本の30%超のRVPIを示している。これは、ファンドが8-10年後も、ポートフォリオの構成企業を売れなかったか、または売ろうとしなかったことを示している。

より良いパフォーマンスを示す大型ファンド

 RVPI30%以上のファンドは、RVPI30%未満のファンドよりも悪い結果を示している。加えて、大型ファンド(10億ドル超)は、小型ファンドよりも、平均して良いパフォーマンスを示している。1995年から2007年の13年にわたる期間で、ファンド種類別のパフォーマンスを分析したところ、強い一貫性は見られなかった。基本的にファンドは種類別でみてもS&P500を上回るパフォーマンスを示した。しかし、プレミアム収益率については一貫性が見られず、S&P500に対する超過リターンは、後半で減少した。

若干の私見

 LBO業界も競争の激化によって公開株式市場に対するプレミアムリターンが減少している可能性を示唆している。超過リターンは、収穫逓減の原則により低下するのは当然予想されるところ。

 大型ファンドがより良いリターンを稼ぎ出している。ターゲット企業へのアクセス、交渉力等の規模のメリットが働いているためであろう。

 バイアウトファンドへの投資に当っても、優れたマネージャーの発見、選択が最重要と言えよう。

以上

2017.6.17

 

Copyright© 2024 株式会社ジー・シー・エス(GCS) 中湖康太 経済投資コラム All Rights Reserved.