分散PEプログラムのベンチマーキング(JAI Spring 2017)

中湖 康太

「分散プライベート・エクイティ・プログラムに対する合成ピア・ベンチマーキング」ジェロエン・コーネル、ブラックロック・エクイティ・パートナーズ “Synthetic Peer Benchmarking for Diversified Private Equity Programs” by Jeroen Cornel, Vice President, BlackRock Private Equity Partners, Princeton, NJ: jeroen.cornel@blackrock.com, JAI Spring 2017

 
 
分散PEのベンチマーキングに関する研究論文。結局のところ、マネージャー選択能力の重要性を浮き彫りにしていると言ってよい。誤解を恐れず主なポイントをまとめ(詳細、正確には原典参照のこと)、若干の私見を述べたい。

低金利環境とPEへの資産配分

 プライベート・エクイティ(PE)は多くの年金、生命保険、インダウメント等のポートフォリオの標準的な構成要素となっている。最近の低金利の状況において、多くの機関投資家は、PEへの資産配分をさらに増加させてきた。しかし、分散PEプログラムへの投資ににあたって、適切なベンチマーキングをどのようにするかなど、多くの問題が生じている。

PEへの直接投資のベンチマーキングPME

 PEのベンチマーキングに当たって一般的な方法のひとつは、PEの投資のタイミングと大きさを考慮した上で、公開市場の同等物(PME:Public Market Equivalent)を利用したものである。PME手法は、よく知られたもので、広く使われており、またPEへの直接投資には有効なものである。

分散PEプログラムのベンチマーキング

 一方、投資家は、類似の分散PEプログラムへの投資が同時期にどのようなパフォーマンスをしたか知りたいであろう。この問いに適切答えるには、多くの分散又は混合化されたPEプログラムのデータが必要であるが、現在はそのような状況にはない。

 この問いに答えるために、多くのファンドのユニバースを基にして分散PEプログラムを複製し、2つの核となるパフォーマンス指標である内部収益率IRRと投下資本倍率とを用いて、特定の分散PEプログラムに対して指標となるベンチマークを提供するシミュレーション技法を開発した。

ミスリーディングな既存のベンチマーキング

 この手法は、指標となるベンチマーキング手法といえる。なぜなら、基礎となっているキャッシュフローを再構築し、次にこれをプログラムレベルに統合した後でIRRを推定しているからである。これによって、既存のベンチマーキング手法にあるる潜在的な数学的落とし穴を回避することができる。

確率的アプローチと主要ファクターへの分解

 さらに、このテクニック(手法)は、確定的というより確率的に結果を示し、全体のパフォーマンスをマーケット要因、年次、戦略、地理的条件、説明されない要因(特にマネージャー選択能力)に分解する。このコンセプトは、パフォーマンスを共通因子(common factors)に分解するものであり、ブラックロックでしばしば適用され、公表されているフレームワークである。

 この手法は、付随的なものと解されるかもしれないが、非公開市場に対してベンチマーク・パフォーマンスを提供するものであり、パフォーマンスを非公開市場の要因に分解することを可能にするのである。

 本論文は、この新手法を詳細に提供している。第一に、資産分散について述べ、分散PEプログラムのパフォーマンスが、基礎となる数字が合計される方法によっては、誤った結論に導き得ることを示している。

 第二に、分散PEプログラムをベンチマーキングする既存の手法を示した後で、ここで提案する新しい方法を詳細に示した。次に、新手法を2つの分散PEプログラムの例に適用した結果を詳細に議論している。

3つの障壁の克服

 単一のPEファンドへの投資パフォーマンスを評価する様々な方法があるが、分散PEプログラムのパフォーマンスを分析し、比較する方法は、まだ確立されていない。本稿は、分散PEプログラムをベンチマーキングする新しい方法を示した。これは、分散プログラムをベンチマーキングを困難にしていた3つの問題を克服している。

1) 確率論的アプローチ

 構成、保有数の点で比較可能なデータが欠如していることから、分散プログラムをシミュレートし、パフォーマンスについて、決定論的ではなく、確率論的な結果を示した。

2) プログラムレベルでキャッシュフローの再構築

 個々のファンドのパフォーマンスを平均する慣行的な方法は誤った結論に導きやすい。これに対して、基礎となるキャッシュフローを再構築し、プログラムレベルで総計した上でパフォーマンスを計算する手法を示した。

3) パフォーマンスの分解

 パフォーマンスをコモンファクター(共通要因)に分解し、パフォーマンスのドライバーとなっているユニークなマネージャー選択能力に帰すべき部分を推定する

他の非流動性の代替資産クラスへの適用

 本研究は、PE投資にフォーカスしている。しかし、この方法は、十分な経験上のデータがあることが前提になるが、不動産やインフラストラクチャーなどの他の流動性に乏しい代替資産クラスにも適用することができるであろう。

若干の私見 - 優秀なマネージャーの発見・選択の重要性

 昨今の超低金利、マイナス金利環境は、機関投資家の伝統的な資産運用に限界をもたらしている。プライベート・エクイティ(PE)への投資も多様なものになっている。本研究は、分散PEの合成ピア・ベンチマーキングについて述べたものである。ベンチマーキングは、①説明責任、②パフォーマンスレビュー、③マネージャー選択能力の観点から必須であることは言うまでもない。

 特に、優れたマネージャーの発見、選択能力は、どんな時代、環境にあってもキーポイントであろう。昨今の運用難の状況にあって、その重要性はさらに際立ったものになっている。優秀なマネジャーのファンドに巨額な資金が集中するのを見ても、アルファが問われるのが今日の資産運用の状況であるといってよいだろう。

以上

2017.6.14

 

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