Notes on Ricardo’s Principles (48) 賃金1

中湖 康太

Notes on Ricardo’s Principles (48) On Wages 1

リカードの賃金論は、最も批判や議論の多いのテーマの一つといってよいだろう。「賃金鉄則」は、リカードを代表とする古典派経済学の特徴であると共に、その理論の限界である、と捉えられることが多いからである。しかしながら、リカードの賃金論をいわゆる「賃金鉄則」(The Iron Law of Wages; 賃金は生存可能な最低水準の食料、必需品の購買力レベルに決定される)と捉える解釈は、リカード経済学に対する最大の誤解の一つであるといってよいであろう。

まず、最初のパラグラフで、リカードは、労働の自然価格において労働者は「増加もせず、減少もしない」(without either increase or diminution)と述べる。これは需給が均衡した状態である。そして、リカードは、「社会の進歩に伴って、労働の自然価格は通常上昇する傾向がある」と述る。

リカードは、「労働の自然価格は、労働者とその家族を養うために必要な食物や必需品や便利品の価格に依存することになる」と述べている。便利品とは、習慣から必要となるものである。

ケインズは、リカード経済学を古典派経済学の典型にとらえ「古典派の公準」として、その雇用理論を明らかにしている。ケインズによれば、リカードを代表とする古典派経済学の雇用理論における公準は次の2つである。①賃金は労働の限界生産力に等しい(The wage is equal to the marginal product of labour.)、②ある雇用水準での賃金の効用は、その雇用水準での労働の不効用に等しい(The utility of the wage when a given volume of labour is employed is equal to the marginal disutility of that amount of employment.)。①は労働需要を規律し、②は労働供給を規律する公準である。

リカード経済学の解釈を難しくしているもう一つの原因は、リカードが労働を基礎とする価値理論と価格理論の2つの理論を同時に展開していることにある、といってよい。読みすすめながら、リカード経済学に対する誤解、時代に制約されないリカード経済学の普遍性をあわせて考察していくことにする。

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5章 賃金について

労働量は、売買される他の商品と同様に増減し、労働にも自然価格と市場価格がある。労働の自然価格は、労働者を平均して増加も減少もさせず生存ならしめる価格である。

労働者が、自己及び労働者数を維持するために必要な家族を維持する力は、賃金として受け取る貨幣量に依存するのではなく、その貨幣によって購入する食料、必需品、習慣から必要な便利品の量に依存する。労働の自然価格は、労働者とその家族を養うために必要な食料や必需品や便利品の価格に依存することになる。食料や必需品の価格の上昇により、労働の自然価格も上昇する。それらの価格の下落は労働の自然価格を減少させることになる。

社会の進歩に伴って、労働の自然価格は通常上昇する傾向がある。何故なら労働の自然価格を規律する商品のうちの1つは、その生産が相対的にますます困難になるからである。農業の進歩や、新市場の発見による食料の輸入により、一時的には、上昇する傾向にある食料や必需品の価格に逆の影響を及ぼすことがあるかもしれない。むしろ、必需品の自然価格は下落する場合もあるかもしれない。同様の原因により、労働の自然価格も、それに相応する影響を受ける(下落する)かもしれない。

全ての商品の自然価格は、原生産物(原料)と労働を除けば下落する傾向にある。というのは、一方では原生産物の自然価格の上昇によって、商品の実質価値が増加するものの、機械の進歩や、より良いい労働の分業や配分、生産者の技術や技巧の向上によって打ち消されてしまうためである。

CHAPTER V  ON WAGES

LABOUR, like all other things which are purchased and sold, and which may be increased or diminished in quantity, has it natural and its market price. The natural price of labour is that price which is necessary to enable the labourers, one with another, to subsist and to perpetuate their race, without either increase or diminution.

The power of the labourer to support himself, and the family which may be necessary to keep up the number of labourers, does not depend on the quantity of money which he may receive for wages, but on the quantity of food, necessaries, and conveniences become essential to him from habit, which that money will purchase. The natural price of labour, therefore, depends on the price of the food, necessaries, and conveniences required for the support of the labourer and his family. With a rise in the price of food and necessaries, the natural price of labour will rise; with the fall in their price, the natural price of labour will fall.

With the progress of society the natural price of labour has always a tendency to rise, because one of the principal commodities by which its natural price is regulated, has a tendency to become dearer, from the greater difficulty of producing it. As, however, the improvements in agriculture, the discovery of new markets, whence provisions may be imported, may for a time counteract the tendency to a rise in the price of necessaries, and may even occasion their natural price to fall, so will the same causes produce the correspondent effects on the natural price of labour.

The natural price of all commodities, excepting raw produce and labour, has a tendency to fall, in the progress of wealth and population; for though, on one hand, they are enhanced in real value, from the rise in the natural price of the raw material of which they are made, this is more counterbalanced by the improvements in machinery, by the better division and distribution of labour, and by the increasing skill, both in science and art, of the producers.

2017/1/17

 

 

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