企業の税負担削減行動が資本コストに与える影響(SAJ2017年7月)

中湖 康太

 「企業の税負担削減行動が資本コストに与える影響」大洲裕司 大阪市立大学大学院経営学研究科特任講師、石川博行 大阪市立大学大学院経営学研究科教授 証券アナリストジャーナル20177月号)

 

 同論文はタイトル通りのテーマであるが、平たく言えば、企業の税負担削減行動が株価にどういう影響を与えるか、ということであろう。2001年から163月期決算企業を対象に行った興味深い実証分析である。誤解を恐れず同論文の結論をまとめ、若干の私見を述べたい(正確、詳細には原典参照のこと)

短期的か長期的・持続的か

1.短期的な税負担削減は資本コストの上昇をもたらす
2.長期的・持続可能な税負担削減は、そのようなリスク上昇を引き起こさないと解釈することができる

残された研究課題:期待リターンへの影響

 短期的な税負担の削減によって将来の資本コストが増大するという結果が、税負担削減のリスクによってもたされたのか、あるいは、税削減によって増加する将来キャッシュフローが企業の期待成長率に影響を与え、それを反映する形で期待リターン(資本コスト)が増大したのか、判別できない。税負担削減行動のリスク要因に加え、企業の期待成長率を反映した分析を実施することが必要である。

若干の私見

税削減行動がもたらしたEPSの質と持続性

 投資家として、EPSを見る場合、それが永続的なものかどうか、一時的なものかどうかを判断することは重要なチェックポイントのひとつである。特に、税率が低い企業の一株当たり利益(EPS)を評価する場合、それが一時的要因(ここでは税負担削減)によるかさ上げされたEPSなのか、それとも、その税率は永続的に続くとみてよいのかを判断することが重要になる。

株価評価モデルで考える

 これは、言い換えればEPSの成長率に関係してくるポイントである。何故なら、株価は、シンプルなモデルで考えると、

P = EPS / ( r – g )

P:株価
EPS:一株当たり利益
r: 資本コスト
g: EPS期待成長率 

 同式を変形すると(両辺をEPSで割ると)PERそのものになる。

PER = P / EPS = 1 / ( r – g )

と表すことができるからだ。つまり、まず第1に、税削減行動によって仕上がったEPSの質、持続性、永続性が問われ、次に、その成長性(=期待成長率)が問われることになるのである。

フリーキャッシュフローの使い道

 また、高まったEPS(フリーキャッシュフローとみなすことにしよう)が、配当として株主に還元されるのか、内部留保されどのように再投資されるのか、EPSの成長率は高まるのか、ほぼ同一なのか、あるいは(本来あるべきでないが)下がるのか、を見極めることになる。

一時的なものであれば投資家は修正する

 例えば、繰延税金資産の取り崩しで、税率が下がりEPSがかさ上げされていても、投資家はこれは一時的なものとして、判断し、修正EPSを使って株価を評価することになる。つまり、そうでない場合より低いPERが妥当になる。

OECDのBEPS(租税回避撲滅運動)

 これが、タックスヘブンの活用による税削減行動である場合であっても同様である。低い税率が極めてテクニカルであり、証券アナリストジャーナル同号の明石論文(「租税負担削減行動の手段と現状」)にあるように、OECDBEPS(Base Erosion and Profit Shifting)プロジェクト、租税回避撲滅運動によりいずれ消滅することが予想されるのであれば、投資家はEPSをディスカウントして評価する可能性が高い。

 租税削減行動により、合法的に生み出されたフリーキャッシュフローは、追徴課税等の懸念がなければ、究極的には株主に帰属するものであり、株主還元であれ、再投資であれ効率的に運用されれば株主価値にはプラスであることには違いない。ただし、それが一時的ないし、短期的なものであるか、持続的、永続的なものであるかについて評価が分かれるということになる。

適正な税削減行動は資本の効率的配分につながる経済的・社会的行動

 グローバル企業は多かれ少なかれ、様々なスキームを使って、税削減に努めている。また、企業誘致や投資を促すため、優遇税制をとっているタックスヘブン、各国税制があるのも事実である。法の主旨に明らかに反し、網をくぐり抜けるような、あまりにテクニカルなスキームは問題であるが、適正な税削減行動は、株主価値を高め、資本の効率的配分につながる、経済的にも社会的に適切な行動であるといえるだろう。

以上

2017/7/15

 

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