議決権行使について – SAJ6月号読む

中湖 康太

議決権行使について - 証券アナリストジャーナル6月号特集「議決権行使」を読む

SAJ6月号では議決権行使が特集されている。SAJでは、基本的に株主としての機関投資家の議決権行使の実効性を論じている。もちろん議決権行使を通じて、投資先企業の経営に影響を与え、株主価値、企業価値を高める経営をうながすことが目的である。

議決権行使への関心の高まり - 日本版スチュアードシップ・コード、コーポレートガバナンス・コード

背景には、アベノミクスの第三の矢、成長戦略にのっとり、2014年2月の「責任ある機関投資家の諸原則」(日本版スチュアードシップ・コード)制定、15年6月の企業の持続的成長と中長期的な企業価値向上のための「コーポレートガバナンス・コード」の施行があるという。このような資本市場の本来的な機能が政府主導によってはじめて積極化するというのはいかにも日本的であるという感もあるが、経緯はどうあれこれは前向き歓迎すべき動きである。

本誌を通読して気づいたこと、思ったことを2点述べたい。

日本特有の機関投資家の利益相反問題

第一は、日本に特徴的なこととして、日本特有の機関投資家の利益相反問題である。これは、あらためてなるほどと思った点である。日本においては機関投資家が銀行、保険、証券などの金融機関グループに所属する運用機関であることが多い。そのため、受益者利益と機関投資家が属する金融機関グループの利益にコンフリクトが生じる可能性があるということだ。これは、例えば、機関投資家が銀行グループであった場合、銀行として株主としての立場よりも、貸し手、レンダー、債権者としての立場が優先する見えないインセンティブが生じる可能性がある。このコンフリクトを解消するにはプロセスの透明性確保が重要であるとする。キーワードは、透明性の確保であると思う。

コーポレート・アクティビズムの有効性

第二に、議決権行使状況の開示は重要ではあるが、あまりに形式的なことにこだわっては木を見て森を見ず、になりかねないということである。要は、議決権行使力を基にして、投資先企業に株主価値、企業価値向上の経営をうながすことである。物言わぬ株主が主体の上場企業には、経営方針に、持続性、バランス、品質、取引関係の重視、人間尊重がうたわれ、ROEはおろか、株主価値の向上にも触れられていない企業すらある。

議決権行使をもとにした、機関投資家による投資先企業への積極的な働きかけについては、米国カルフォルニア州公務員の公的年金であるカルパース(CalPERS)が有名である。このような活動はコーポレート・アクティビズムとも呼ばれる。重要なことは、このような活動により投資先企業のパフォーマンスが、業績的にも、株価パフォーマンス的にも向上することが効果として現れているということだ。

 

GPIF(年金基金)の枠割

日本においては、むしろGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)に米カルパースに近い、コーポレート・アクティビズが期待されるかもしれしれない。株式パフォーマンスの向上は、日本の年金制度にとって避けて通れない問題だからである。また、金融機関グループに属する機関投資家に、コーポレート・アクティビズムを期待するのは現実的かもしれないからでもある。

株主価値重視への経営

ポジティブな面でいえば、日本においてもコーポレートガバナンス、スチュアードシップへの関心の高まりで、ROE重視の経営、配当性向の向上、自社株買いなどによる株主価値向上への取組が行われてきていることだ。また、経営者報酬においても、ストックオプション制を採用する企業が増えてきているのも、株主価値重視の経営をうながすことになるだろう。

このような取り組みにもかかわらず、日本株のパフォーマンスは今一つさえないが、これらの株主価値、企業価値重視の経営はかならず実を結ぶことになるだろう。そうなると期待したい。

8/22/19

 

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