英国収益不動産投資ガイド

中湖 康太

Book Review

英国収益不動産投資のガイドブック

“THE COMPLETE GUIDE TO PROPERTY INVESTMENT – HOW TO SURVIVE & THRIVE IN THE NEW WORLD OF BUY-TO-LET”, Rob Dix, Published by Team Incredible Publishihing (「(英国)収益不動産投資ガイド」ロブ・ディックス著、ティーム・インクレディブル出版)

英国の不動産投資コンサルタントによる指南書

本書は、英国の収益不動産への投資についてのガイドブックである。著者は、英国の不動産投資コンサルタントで、本書は、一般の個人投資家を対象としている。英国のEU離脱が国民投票によって決定的となった日に、本書を取り上げることになったのは全く偶然である。日本の個人投資家向け収益不動産への投資入門は、巷にあふれているので、参考までに英国での入門書を紹介する、というのが本稿の意図であった。

英国EU離脱の影響

英国のEU離脱は、不動産投資にも負の影響を与えることになるだろう。英国は、多くの海外企業にとって、言語、文化的な親しみから欧州市場への参入に際し、玄関の役割を果たして来た。英国の不動産価格は、不動産サイクルによる好不況の波を経ながらも、中長期的に見ると基本的に右肩上がりで推移している、と著者は述べる。本書の投資指南の根底にこのことがある。英国の不動産価格の歴史的推移の背後には、海外からの資本流入、不動産投資があったことは想像に難くないであろう。

英国のEU離脱は、人(労働、人的資本)、カネ(資本)という本源的な生産要素の移動に係る重大な事象である。正直、現実主義、プラグマティックな判断を歴史的にしてきた英国民が国民投票でこのような選択をしたことは、予想外であった。ただし、ロンドンに生活していた時の経験からいうと、英国人の文化的・経済的独立意識は高く、欧州の一員というよりも、イギリスはイギリスという意識が強いと感じたのも事実であった(さらに複雑なのは、昨今のスコットランド独立の動きに見られるように、英国はUnited Kingdomであり、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの4つの民族的、文化的に異なる国の統合体という側面を持つのである)。恐らく生活の場としての英国が、このような人や資本の動きに、想像以上に侵食されてしまっていたのか、と考えざるを得ないというのが現在の感想である。

不動産サイクルとリカードの地代原理

筆者は、不動産サイクルの波はあるにしても基本的に右肩上がりの英国の不動産価格の過去の推移に触れ、その理由、根拠として、リカードの地代原理をあげている。もっともリカードの地代論は基本的に農業をベースにしている。つまり、人口増に従って最も生産性の高い土地から1等地、2等地、3等地・・・と順次耕作されていく。例えば、3等地が限界地(最劣等の耕作地)として耕作されると、1等地に最も高い地代が発生し、生産性の格差に従って、2等地には次に高い地代が発生する。そして、限界地の3等地には地代は発生しない、というわけである。

勿論、現代の英国の都市部の不動産は、農地として需要されているわけではない。ロブ・ディックスは、本書でそれを明示的に語っているわけではないが、リカードの地代の原理は、住宅地、商業地、工業地等、それぞれの用途の土地に、それぞれ適用しうる、ということを念頭に置いていると思われる。

(続く)

2016.6.24

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