恋の骨折り損 Love’s Labour’s Lost

中湖 康太

シェイクスピア喜劇を楽しむためにはストーリーを追わない

シェイクスピアの喜劇の楽しみ方は様々でしょうが、私はストーリーを追うことはしてません。それは言葉が中世の英語で難解なこともありますが、そもそもストーリーはシェイクスピアの喜劇の本質ではないと感じるからです。要は、シェイクスピア喜劇は、現代のシットコム(Situation Comedy)に近いのではないか、というのが私の推測です。シットコムにおいては、その場その場のシチュエーションにおける可笑しさ、それは時にジョークであり、ユーモアであり、風刺であり、コミックであるわけです。ストーリーは可笑しさ、笑いの連続によって織られていきまますが、中心ではない。勿論、ストーリー自体が「笑い」の種でもあります。これは私が現在、”Frends”(「フレンズ」)など現代のシットコムにはまっているからかもしれません。つまり、笑い、可笑しみによってストーリーが織られていくのです。

シェイクスピアの多くの作品には、種本がある、つまり先人の題材、ストーリーを拝借しているものが多々あるのです。してみるとシェイクスピアの独創性は、やはりその縦横無尽、あふれるばかりの表現力、ストーリーを軸にして躍動する創造力にあるのではないかと思います。

「女人禁止令」という強烈なコメディー

「恋の骨折り損」(Love’s Labour’s Lost)は、ナヴァール国の王ファーディナンドが、向こう3年は女性との交際を絶って学問に専念し、女性は宮廷の1マイルに近づいてはいけないという「女人禁止令」を発令するという荒唐無稽で劇がスタートします。「女人禁止令」ということ自体が強烈なコメディーといってよいでしょう。

第一幕は、ナヴァール王ファーディナンド(Ferdinand)の次の台詞で始まります。

Let fame, that all hunt after in their lives, (誰もが人生において名声を求める)
Live register’d upon our brazen tombs (それを墓標とし、)
And then grace us in the disgrace of death; (死に添えようとする)
When, spite of cormorant devouring Time, (貪欲を貪る時)
The endeavour of this present breath may buy (生きる営みにおいて、)
That honour which shall bate his scythe’s keen edge (その貪欲を抑えることができれば )
And make us heirs of all eternity. (私たちは永遠に名誉を得ることができる)
Therefore, brave conquerors, — for so you are, (貪欲を捨てることができれば)
That war against your own affections (執着との戦いにおいて)
And the huge army of the world’s desires, – (欲望という悪魔の軍に対して)
Our late edict shall strongly stand in force: (我らの勅令が立ちはだかるであろう)
Navarre shall be the wonder of the world; (ナヴァール国に世の人々は驚嘆するであろう)
Our court shall be a little Academe, (我が宮廷は学問の舎)
Still and contemplative in living art. (静かさと瞑想の芸術の苑)
You three, Biron, Dumain, and Longaville, (ビロン、デュメイン、ロンガヴィルの3人は、)
Have sworn for three years’ term to live with me (3年間私と共にこの勅令に従うことを誓った)
My fellow-scholars, and to keep those statutes (親愛なる学者達よ)
That are recorded in this schedule here: (勅令を守ると)
Your oaths are pass’d; and now subscribe your names, (君たちは誓約してくれた。さあ、ここに署名して欲しい)
That his own hand may strike his honour down (自らが、この勅令の細目を破れば)
That violates the smallest branch herein: (その名誉をおとしめることになるであろう)
If you are arm’d to do as sworn to do, (誓約を守る覚悟があるなら)
Subscribe to your deep oaths, and keep it to. (ここに署名して欲しい)

・・・

(続く)

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