今日の機関投資家行動について

中湖 康太

マイナス金利、ボラティリティ…

証券アナリスト・ジャーナル(VOL.54 APR.2016)に、「1996年機関投資家運用の課題と新潮流」(川原淳次氏、野村アセットマネジメント㈱)と題する講演内容が掲載されている。本稿を読み、機関投資家の行動について感じることを述べたい。

筆者(中湖)のようなバリュー投資家からすると最近の株式市場は基本的に魅力的(割安)に映る。マイナス金利下で、株価は、東証1部平均の予想配当利回り2.18%、同PER15.25倍(逆数である株式益利回り6.56%)、同PBR1.10倍(2016.4.12現在)という水準である。長期金利(10年国債利回り)は、マイナス0.11%なので、リスクプレミアムは6.67%に上る。個人的には、リスクプレミアムは3.5~4.5%が妥当な水準と思われるので、株価は49~93%程度割安と推定されることになる。

もっとも、ここでは、利益予想は所与としているが、市場は相当程度の減益を織り込んでいると推定することも可能である。また、最近のようにボラティリティー(変動≒リスク)が高い市場環境においては、リスクプレミアムが高まることは合理的に推定されることも確かである。

成果主義、アグノスティック(不可知論的)な運用を志向する機関投資家

このような環境下で、機関投資家はどのような投資行動をとるのか、興味深いところである。川原氏の講演は、このような興味に対して示唆に富むオブザーベーションを提供してくれている。要旨を簡潔に述べるならば、機関投資家は、低金利、マイナス金利の導入という金利環境下、ボラティリティーが高まるなか、また、機関投資家のそれぞれの負債制約と、規制強化のなかで、従来のベンチマークに対するアウトパフォーム(ベンチマークを上回る運用をする)を目標にするのでなく、Outcome-oriented(結果志向; 筆者注)/Agonostic(あいまいな; 不可知論的な; 筆者注)な、成果主義の方向へ向かっている、というのである。

国内年金動向では、基本的に株式のリスクを抑制し、国内債券を減らし、オルタナティブや一般勘定、外国債券を増やす傾向にあるという。オルタナティブ投資は、今日のトレンドであるといってよいだろう。オルタナティブ投資は、プライベート・エクイティ、ヘッジ・ファンド、不動産、コモディティ等多様な形態をとりうるが、その根底には、ボラティリティーに着目したトレーディング、レバレッジの活用、ロングオンリーの制約の克服といった理由があり、それ自体は妥当であると思う。

オルタナティブ投資の視点から株式投資を見直すべき

しかし、筆者は株式のウェートを引き下げるという機関投資家の行動は、それが事実であるとすれば、基本的に近視眼的であると感じる。筆者が、アクティブ運用のファンドマネージャーであれば、リスク許容度の範囲で株式のウェートを大幅に引き上げているであろう。以前にも述べたことがあるが、上場株式でも、疑似的なオルタナティブ投資は可能であり、機関投資家は伝統的な発想にとらわれて、その可能性を十分活用していないと感じる。オルタナティブ投資への流れは妥当であると思う。しかし、オルタナティブ投資には相対的に高いフィーがかかる、流動性に欠ける場合がある等の問題がある。また、実物不動産への投資も、平均的にいえば、土地価格、建築費の高騰により、フリーキャッシュフローベースで、エクイティに対して6%強のリターンを得るのは困難な状況になっていること等がある。

バリュー投資こそ投資の王道

株式投資の魅力をもう一度見直すことが必要ではないだろうか。但し、伝統的視点ではなく、オルタナティブ投資的な視点で。そして、バフェットを引くまでもなく、バリュー投資こそ投資の王道であると思うのである。

以上

2016.4.12

 

 

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