ケインズと黒田日銀。そして植田日銀への期待 What we can hope for Ueda BOJ with English summary

中湖 康太

ケインズと黒田日銀。そして植田日銀への期待

(Summary in English)
Kuroda BOJ’s different dimentional monetary easing, in my view, is based on the idea J.M. Kyenes revealed in his General Theory that ‘the public authority itself could borrow through the banking system on an unlimited scale at a nominal rate of interest’ in the liquidity trap situation. (CH.15 INCENTIVES TO LIQUIDITY)

Mr. Ueda, next BOJ governor, briefed at the House of Representatives on Feb.24, that he would think the current BOJ monetary policy was appropriate and that monetary easing should continue to nurture the environment to support desirable wage increases.

BOJ’s operation to buy long-term JGBs, under the name of YCC, should continue given the situation in Japan. The progressive taxation, income tax, inheritance tax, corporation tax etc., in Japan is already very heavy. Further increase aiming to attain balanced budget should discourage willingness to earn, entrepreneurship, and harm business and economic growth; i.e., destroy, in a sense, Japan’s economy and the future. 

On the other hand, however, Kuroda’s negative interest rate policy appears to discourage private banking sector to expand business, failing to produce desired effect.

Monetary easing should continue. But the negative interest rate policy should be abandoned, back to zero interest rate.

イールドカーブコントロール: ケインズ一般理論の政策的仮説を実行した黒田日銀

 

黒田日銀の異次元金融政策のイールドカーブコントロールのアイデアはケインズが一般理論で示した政策的仮説に基づいている。

黒田総裁は、本年4月8日に任期を終える。植田次期総裁は、2月24日の衆院議院運営委員会で、「現在の日銀の金融政策は適切。緩和を継続して経済を支え、企業が賃上げをできる環境を続ける必要がある」との所信を述べた。今後の金融政策の方向性を探る意味で若干の考察を行いたい。

いうまでもなく植田新総裁の金融政策によって金融資本市場は大きな影響を受ける。現在のマーケットの不安定性は、主として米国市場の動向の影響を大きく受けているためだが、さらに今後の日銀の金融政策についての思惑が重なっているといえる。

ケインズは、一般理論(CH15 流動性選好, p.207)で、次のように述べている。

 政府は銀行システムを通じ名目利子率で無制限で借入れが可能 ー 流動性選好が無限大の状況下

「(2) すでに述べた理由から、利子率が一定水準にまで低下すると、ほとんどすべての人が極めて低い利子率の債券を保有するより、現金を保有しようとするようになり、流動性選好が無限大になる可能性がある(いわゆる「流動性のわな」KN注)。このような状況では、貨幣当局は効果的な利子率のコントロールを失うことになるだろう。これまでのところその例を見ないが、今後、このような極限的な状況が重要になるかもしれない。実際のところ、貨幣当局は長期の債券を扱うことをためらってきたため、検証する機会が無かったといえる。さらに言えば、もしこのような事態が生ずれば、それは政府が銀行システムを通じて名目利子率で無制限で借り入れることが可能になることを意味する。」

“(2) There is the possibility, for the reasons discussed, that, after the rate of interest has fallen to a certain level, liquidity-preference may become virtually absolute in the sense that almost everyone prefers cash to holding a debt which yields so low a rate of interest. In this event the monetary authority would have lost effective control over the rate of interest. In this event the monetary authority would have lost effective control over the rate of interest. But whilst this limiting case might become practically important in future, I know of no example of it hitherto. Indeed, owing to the unwillingness of most monetary authorities to deal boldly in debts of long term, there has not been much opportunity for a test. Moreover, if such a situation were to arise, it would mean that the public authority itself could borrow through the banking system on an unlimited scale at a nominal rate of interest.” (THE GENERAL THEORY, CH.15 INCENTIVES TO LIQUIDITY; p.207)

これはまさに、黒田日銀のゼロ、さらにはマイナス金利政策をほどこした上で、短期だけでなく、中長期の国債の買い入れを通じたイールドカーブコントロールに踏み込んだ、いわゆる異次元質的量的緩和に当てはまるといえるだろう。

ケインズは、このような政策について簡単に触れるだけで、詳細な議論を展開していない。いわば理論的、政策的可能性を示唆した程度だ。ケインズが指摘するように、ほとんどの貨幣当局(中央銀行)は、短期国債に限ってマネタリーベースのコントロールをしてきた。

黒田日銀はまさに大胆にその政策に踏み込んだ。雇用改善、デフレ脱却にこれは効果があったと思う。アベノミクスの下、黒田日銀の異次元緩和は大きな功績があった。しかし、マイナス金利導入のあたりから、その効果に陰りが生じたのではないかと思う。マイナス金利まで踏み込む必要はなかったのではないか。それは民間金融機関による信用創造をかえって阻害したのではないか。もとより、銀行は預金をとることに後ろ向きになった。有効な貸出先が見つからない場合、民間銀行は日銀に当座預金としておくことになる。マイナス金利とはこの日銀当座預金にペナルティーを課すことを意味する。

ケインズは、確かに「政府が銀行システムを通じて名目利子率で無制限で借り入れることが可能になる」と述べている。しかし、それは永続的に可能である(sustainable)とまでは言っていない。

日銀のバランスシートは、黒田総裁就任前の2013年1月の総資産158兆円から、2023年2月の735兆円へと4.6倍超に膨らんだ。国債保有残高は、同113兆円から584兆円と約5.2倍、471兆円増えている。

前述の日銀当座預金(負債勘定)は、同44兆円から515兆円、約11.7倍、471兆円増加している。国債保有残高と当座預金残高の増加が奇しくもほぼ471兆円と同額だ。信用乗数は低下し、マネタリーベースの増加は、民間金融機関の信用創造につながっていないのが実態だ。

インフレが起こらないのは流動性選好(貨幣への投機的需要)のため

これだけマネタリーベースが増えても著しいインフレにはいたっていない。伝統的な貨幣数量説は、マネタリーベースの増加はインフレの原因となる。これが起こっていないのは、マネーが良くも悪しくも実体経済にまわらず(資産効果は別にして)、流動性選好が吸収しているためだ。

増税により財政均衡化をはかることは日本経済を破壊する

日本の状況を考えれば、今後も日銀による国債買い入れによるマネタリーベースの供給は必要になるだろう。いたずらに増税による均衡財政をはかれば、それこそ実体経済を破壊することになる。日本は先進国の中でもすでに著しい累進課税の重税国家だ。特に累進課税強化による増税は、稼ぐ意欲を失わせ、企業家精神(アントレプレナーシップ)を阻害し、投資を減少させ景気、経済成長を大きく損なう。

今後の政策の方向性

とすれば、 流動性選好が無限大の状況下で、「政府が銀行システムを通じ名目利子率で無制限で借入れ」を可能にする状況を維持した上で、景気拡大、経済成長を促す必要がある。これが現実的な政策的処方箋ということになるのではないだろうか。

マイナス金利は、民間金融機関による信用創造を損ない、著しいマネータリーベースの供給にも関わらず、景気拡大、経済成長を損なってきた可能性がある。金融機関の信用創造を促すためには、マイナス金利政策の解除、ゼロ金利政策に戻すことが適切ではないだろうか。

植田日銀に期待されるのは、自律的な経済成長を可能にする、異次元量的質的金融緩和政策といえるのではないだろうか。

By Kota Nakako

2023/3/15

ケインズと黒田日銀。そして植田日銀への期待 What we can hope for Ueda BOJ – 株式会社ゼネラル・カラー・サービス 中湖康太 経済文化コラム (general-cs.tokyo)

Copyright© 2024 株式会社ジー・シー・エス(GCS) 中湖康太 経済投資コラム All Rights Reserved.