ときわ台駅前マンションと景観利益 - 経済的視点からの実証的考察

中湖 康太
図表-常盤台住宅地・商業地-地価公示価格の推移.pdf
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常盤台マンション訴訟15年

本年は、2007(平成15)年3月29日に読売新聞が「『板橋の田園調布』景観論争」と報じ、同年7月にマンション建設差し止めを求めて東京地裁に仮処分を申請したいわゆる「常盤台マンション訴訟」が起こってからまる15年が経過し、16年目にあたります。

ここでは、15年経った今、より具体的には15年のデータが存在する現在、そのデータを用いて、常盤台駅前マンションが景観利益に悪影響を与えたのか、与えなかったのか、それとも、むしろ好影響を与えたのか、について経済的視点から考察しました。

結論としては、駅前マンションは、常盤台住宅地の(経済的な意味での)景観利益をむしろ高めた可能性がある、ということです。

伝統的街並みに慣れ親しんだ住民のアレルギー

東武東上線ときわ台駅北口駅前は、ゆったりとしたヒマラヤ杉とけやきをいだく、広々とした東京でも屈指の私鉄沿線の優美な駅前ロータリーです。

2003年1月中に建築計画が発覚した当初は、昭和初期の常盤台住宅地の開発分譲時代からの伝統的な低層の街並み景観に親しんできた住民の方々には、駅前に突如として現れた11階建の中高層マンションに違和感、アレルギーが強かったと思えます。

裁判は最高裁まで争われ、結局2007(平成19)年9月に上告棄却となり、マンションは計画通り建設されることになりました。つまり、同マンションの建設は、景観利益に対する違法な侵害にあたらず、また公序良俗違反や権利の濫用にあたるとはいえないとし、(住居地域)住民の商業地域に及ぶ景観利益は法律的に保護されることになりました。

しょうしゃな駅前プレミアムマンションとしてロータリーを飾り、常盤台住民と人々に愛される今

今では、低層部を御影石に飾られ、1階には少しお洒落なカフェレストランがある瀟洒(しょうしゃ)な駅前プレミアムマンション(11階建て)としてロータリーを飾っているといえます。同マンションには、元常盤台周辺地域に住まわれていた方々、若い世代の世帯が多くいます。

またシニア世代になり常盤台の低層戸建て住宅から移り住んだ人や、事務所として使ったり、親世代とスープの冷めない距離ということから子供世代が住んだり、趣味のフラメンコのコンサートを開催することを楽しみにしているという1階カフェレストランオーナーである地元の女性病院長、ランチを楽しむ地元マダムの方々、常盤台に勤務または訪れるビジネスパーソン、学生など人々に愛されるにいたっていると言えます。

景観利益を高めた可能性がある駅前マンション

景観利益のうち経済的利益に着目

景観利益というのは法律用語ですが、利益という時、そこには当然経済的利益が含まれるとい言ってよいでしょう。私は法律の専門家ではないので、ここでは経済的な意味での景観利益にしぼって考えてみたいと思います。

地価公示価格による過去15年の実証的考察

用いるデータは、国土交通省が毎年公表する1月1日時点の地価公示価格です。地価公示価格というのは、各地域の標準地における更地としての正常(適正)価格です。

地価公示で、常盤台住宅地では、住宅地については、標準地・板橋-3(常盤台2-24-5)、商業地については、標準地・板橋5-9(常盤台2-6-5)があります。

また、地価公示では、区市町村用別用途別平均価格が公表されています。これにより、板橋区の住宅地の平均価格、商業地の平均価格がわかります。

ここでは、マンション建設が明らかになったのが2003年1月半ばですから、2003年から2018年の地価公示(各年1月1日の価格)について、住宅地、商業地のそれぞれについて価格の推移を見てみたいと思います。それを示したのが図1-住宅地、図2-商業地、データをそれぞれ表1-住宅地、表2-商業地 として掲載しています [見出し下の「図表 常盤台住宅地・商業地 地価公示価格の推移 」(PDFファイル)をダウンロードしてください]。

同図表からわかることは、住宅地、商業地とも板橋区平均の伸びを上回っていることです。この場合、マンション訴訟を起こしたのは商業地域の地権者ではなく、住宅地域の住民、地権者ですので、住宅地について見ることが重要です。

つまり、駅前マンションの建設によって住民の(経済的な)景観利益が損なわれたとするならば、マンション建設問題が明らかになっていなかった2003年以降、特に上告棄却が決定した2007年9月以降、景観の悪化を懸念して常盤台住宅地の地価は悪影響を受けていた、つまり下落圧力が加わることが推定されます。

常盤台住宅地の地価上昇は板橋区平均を上回る

しかしながら、実際には常盤台住宅地の地価は、板橋区の平均を上回って上昇しています。2003年の地価公示を100として指数化した場合に、2018年には板橋区の住宅地の平均は112.01、これに対して常盤台住宅地(標準地・板橋-3)は114.52であり、2.51ポイント上回っています。これは駅前マンション建設が、その北側に広がる第一種低層住居専用地域の地価に経済的な悪影響を与えていない、むしろプラスの影響を与えている、少なくともその可能性の余地があることを示しています。

常盤台商業地の地価上昇は板橋区平均を上回る

参考までに商業地の地価の推移をみると、2003年を100とした場合に、2013年には板橋区の商業地の平均112.28に対して、常盤台商業地は116.00であり、3.72ポイント上回っています。このように、マンション建設以降、駅前商業地も好影響を受けていると推定することが可能なのです。

以上、過去15年の地価公示にもとづく実証的な考察により、駅前マンション建設は常盤台住宅地の(経済的な)景観利益を高めた可能性があるということを示しました。

景観利益の経済学的考察については、拙稿「景観の経済学―お屋敷街の経済メカニズム」で述べました。但し、同稿では、住宅地域に限ってのものでした。景観の経済学の視点からの商業地域におよぶ景観利益については別途考察したいと思います。

常盤台駅前商業地域のあり方を考える

以上をふまえて、常盤台駅前商業地域のあり方についてすこし考えてみたいと思います。

商業施設、オフィスは勿論、共同住宅、公共施設、娯楽施設などもOKな商業地域

ときわ台駅北口駅前は、都市計画法上の商業地域に指定されています。商業地域というのは、用途制限が最も緩和され高度利用が期待されている地域です。商業地域という名称からするといわゆる店舗やオフィスなどが連想されますが、住宅、共同住宅、学校、病院、娯楽施設、公共施設なども建設が許されています。

さらに商業地域は、人々が集まる場所でもあるので、防火地域に指定され耐火建築物とすることが必要とされ、耐震性を含め防災にはより厳しい規制が適用されています。防災に強い街づくりという点からも、駅前マンション建設は有意義だったということが言えます。

ときわ台駅前商業地域は建ぺい率80%、容積率500%が定められいます。また高さ制限の導入により建築物の高さの最高限度35メートルが2015年に定めれました。それまでは高さ制限はありませんでした。ちなみに駅前マンションの高さは34メートルです。

常盤台一・二丁目地区は、都条例にもとづくしゃれときわ台街ガイドラインが適用され、また板橋区の景観形成重点地区に指定されていますが、そこでは、品のある街並みと緑の連続性が重視されています。

副都心・池袋に近すぎる強味と弱み

ときわ台駅前北口は常盤台住宅地全体の玄関といってよいでしょう。それにふさわしい景観がどうあるべきか、様々な意見があってよいと思います。伝統的な常盤台駅前の姿がやはり望ましいという意見も多いと思います。一方、広々としたロータリーに近代的で瀟洒な中高層マンションがゆったりとしたヒマラヤ杉とと調和し常盤台の駅前景観を良くしているという意見も多数あります。

商業地としては副都心である池袋に近すぎる、都心への利便性が高いゆえに、商業施設、オフィス、娯楽施設の立ち並ぶいわゆる商業地としての位置づけがかえって難しい、という面もあります。

常盤台駅前商業地は商業・住居複合施設用途として魅力が高い?

つまり常盤台は住宅地として最も魅力ある地域であり、その意味では商業地域にまとまった土地があれば、マンション建設がより適しているという見方があります。とはいっても1、2階はおしゃれなお店がもっとできることが街の全体の発展、魅力を高めるために必要ではないかと思います。低層部を商業施設とする中高層マンションが建てば、住民=消費者も増え、商業地としての魅力が高まります。

商業地としての魅力を高めることが、住宅地としての魅力を高めるという強い傾向があります。吉祥寺は勿論ですが、近年、赤羽の人気が高まっているのは東京城北においては良い例です。

住宅地を公園のようにするという方向性(田園調布・成城型)と、商業地と住宅地の2基搭載エンジンで街の魅力を高める(吉祥寺型)という方向性があります。

駅前商業地域の地権者の立場

都条例に基づくときわ台しゃれ街ガイドラインについても、駅前ロータリー沿いの地権者はガイドラインの地域毎の基準、つまり階数の数値基準(例えば、「6階建てを目安にしましょう」等)に同意していません。したがって、ときわ台駅前ロータリーに面する商業地域は、地域毎の基準が適用される地域ではありません。つまり数値基準は適用されません。

商業地の地価は、住宅地と異なり収益価格、つまりその土地の収益力によってによってほとんど決定されるからです。住宅地は収益力だけでなく、快適性、名声などが重要な要因になります。高級住宅地の場合、地価は収益価格では決定されず、それをはるかに上回っているのが通常です。

したがって、住宅地の地権者の視点を、商業地の地権者に単純に主張すればそこに対立が生じやすいと言えます。

景観とは人々の心に映るもの

景観というのはもとより人々の心に映るものです。世代によって景観に対する見方が変化するということもあります。また建築技術の進歩、ライフスタイルの変化などによって建物のあり方も大きく変化しています。常盤台住宅地は魅力あるものだ、景観の悪化は避けたい、より良くしたい、という総論では一致しても、各論では様々な意見があり、相反することがしばしばです。商業地と住宅地の双方に関わることでは、それが特に顕著であるといえます。

2018/5/5

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