家族ライフサイクル推移と常盤台住宅地の敷地細分化(現在は第III世代・分譲開始82周年)

中湖 康太

家族ライフサイクルから常盤台住宅地の相続、遺産分割の時期をうらなう

分譲時購入者の平均年齢は約50才

「常盤台住宅物語」(板橋区教育委員会、1991)の調査によれば、常盤台住宅地の購入者の購入時の年代は、40代、50代が中心で、全体の3分の2を占めていました。[1]

内訳は40才代が34%、50才代が33%で3分の2を占め、あとは30才代が16%、60才代が14%、20才代2%、70才代1%です。各年代の中央値(例えば40才代は45才)をとると平均購入時年齢は、49.3才になります。単純化のために、購入時期を1936(昭和11)年を基点として考察をすすめたいと思います。

平均的な家族ライフサイクル[2]の推移をもとに、常盤台住宅地の分譲時の購入者の相続、遺産分割時期を推定し、常盤台住宅地の特徴、時代背景を考慮にいれてその推移、変化について考察したいと思います。あくまでたたき台として大まかな流れをつかむため、かなりの単純化をしています。その点をご了解ください。

なお、以下の考察により現在の常盤台住宅地は、東武鉄道により分譲が開始された1936(昭和11)年を第I世代として第III世代にあたります。本年は常盤台住宅地分譲開始82周年です。

第I世代から第II世代への相続、遺産分割時期:1950年代

旧民法の家督存続が廃止されるのは1947(昭和22)年

まず、1936(昭和11)年秋に分譲が開始されてから1941(昭和16)年12月に太平洋戦争が勃発しており、戦死者もいたと思われます。その実態を把握することはほとんど不可能です。ただし、戦後 1947(昭和22)年に民法が改正されるまでは旧民法のもとに家督相続が行われていましたので、仮に世帯主が亡くなったとしても、相続による遺産分割の問題は生じていなかったと考えられます。

常盤台住宅地の購入者の購入時[=1936(昭和11年)時点とする]の平均的家族ライフサイクルが以下のようなものであったとします。購入者の平均年齢は上記より49.3才ですので、購入時での夫の余命は12.0[3]年、妻の余命は15.0年[4]です。

第I世代:<戦前の平均的家族ライフサイクル>

男性:結婚25.0才、長子誕生27.4才、末子(第5子)誕生39.7才、長男結婚52.4才、末子学卒54.7才、初孫誕生54.8才、夫引退60.0才、夫死亡61.3才

女性:結婚21.2才、長子誕生23.6才、末子(第5子)誕生35.9才、長男結婚48.6才、末子学卒50.9才、初孫誕生51.0才、夫引退56.2才、夫死亡57.3才、妻死亡61.5才

1950年代は大きな敷地分割の脅威にはならなかった

以上より夫の死亡時期は1948(昭和23)年前後、妻の死亡時期は1953(昭和28)年前後になると推定されます。昭和22年に民法改正で家督相続が廃止されます。1948〜1953年当時は、まだ高度経済成長が始まる前で地価も低かったでしょう。第I世代は5子が標準ですから子供の数が多いとはいえ、この第I世代から第II世代への相続時期に相続、遺産分割はそれほど大きな問題にならなかったと思われます。

第II世代から第III世代への相続、遺産分割時期:1990年代 - 本格的な敷地細分化の脅威は実は最近

第I世代から第II世代への相続の基点を1953(昭和26)年とします。この時、長子(=男子と仮定)は37.9才[5]、その妻は35.1才[6]です。第II世代の家族ライフサイクルは以下のようなものです。

第II世代:<戦後1951(昭和26)年の家族ライフサイクル>

男性:結婚26.6才、長子誕生28.3才、末子(第3子)誕生33.1才、末子学卒53.1才、長男結婚54.9才、初孫誕生56.6才、夫引退60.0才、夫死亡69.3才

女性:結婚23.8才、長子誕生25.5才、末子(第3子)誕生30.3才、末子学卒50.3才、長男結婚52.1才、初孫誕生53.8才、夫引退57.2才、夫死亡66.5才、妻死亡72.6才

夫=長子(男)の余命は31.4年[7]、妻の余命は37.5年[8]です。第II世代から第III世代への相続時期は、1次相続が1984(昭和59)年[9]、2次相続が1990(平成2)年[10]になります。2次相続が特に重要ですが、この第II世代の相続時期はちょうどバブル経済の崩壊時に重なります。平均的なモデルでは第II世代の子の数は3人ですので、相続税の支払いと遺産分割により土地の売却の圧力が強かったと思われます。

つまり、以上の推定から地価細分化の深刻な脅威というのは実は90年代に本格化すると考えられます。勿論これは平均的モデルをベースにしていますから、この前にも地価高騰を背景とした相続、遺産分割、敷地細分化の問題は生じてきているはずです。しかし、本格的な相続による敷地細分化の圧力は思った以上に最近であるということが上記の推計から言えます。

1990年代に起こった敷地分割

実際、1990年代には常盤台の最大の魅力であるプロムナード沿いの大きな敷地(230坪、140坪程度)でもまん中に私道を作って6分割、4分割され各画地が100㎡余となった事例がいくつかでました。これは第IIから第III世代への相続に伴うものと推定されます。

第III世代から第IV世代の相続、遺産分割時期:次の敷地細分化の本格化は2020年代後半

第II世代から第III世代への相続の基点は上記より1990年になります。この時点で、長子(=男と仮定=夫)は47.1才[11]です。妻は44.6才[12]です。平成初期の家族ライフサイクルは次のようなものです。

第III世代:<1990(平成2)年の平均的家族ライフサイクル>

男性:結婚28.4才、長子誕生30.1才、末子(第2子)誕生32.4才、末子学卒52.4才、長男結婚58.5才、初孫誕生60.1才、夫引退65.0才、夫死亡77.1才

女性:結婚25.9才、長子誕生27.6才、末子(第2子)誕生29.9才、末子学卒49.9才、長男結婚56.0才、初孫誕生57.6才、夫引退62.5才、夫死亡74.6才、妻死亡82.6才

第III世代の夫の余命は30.0年[13]、妻の余命は38.0年[14]、つまり、現在の第III世代から次の第IV世代への相続時期は、1次相続が2020年、2次相続が2028年ということになります。実際には平均寿命はさらに伸びていますので2030年代にずれこむ可能性があります。

常盤台の優美さを守るためにどう対応するかが問われている今

いずれにしても来るべき相続、遺産分割脅威、敷地細分化の圧力にどう対応するかが、常盤台の優美さを守るために問われることになります。

これはあくまで標準ケースです。現在の世帯主である第III世代が相続した時(1990年前後)には、平均的家族モデルで子供3人ですので、相続により3つに分割される圧力が加わったわけです。この遺産分割、敷地分割を経てあるのが現在(2018年時点)の常盤台住宅地の姿であるといえます。

次の遺産分割、つまり第III世代から第IV世代への相続では、第III世代の平均的モデルでは子供は2人ですので、遺産分割により2つになるということになりますが、敷地規模が大きい場合は、90年代の例のように敷地分割はさらに細かくなるでしょう。

今後の敷地細分化、分譲時から数えて第IV世代への相続に備えてやはり最低限の敷地分割を抑制する規制が必要ということになるでしょう。

都市計画法による最低敷地面積100㎡と都しゃれ街条例ガイドラインによる123㎡は最低限の規制

板橋区は2015年の都市計画の見直しで常盤台1・2丁目地区の第一種低層住居専用地域(建ぺい率・容積率:50-100) の最低敷地面積を100㎡としました。強い法的拘束力のある都市計画による一低層(50-100)の用途地域に適用される規制としては、東京23区において最も高いレベルの規制であると思われます(地区計画は除く)。

また、東京都の東京のしゃれた街並みづくり推進条例(通称「しゃれ街条例」)に基づくときわ台景観ガイドラインによれば、一低層の地域毎の規制として最低敷地面積123㎡が適用されています。このガイドラインは2007年11月に都知事により承認・告示され効力をもつようになりました。

ガイドラインは都市計画法ほどの強い法的拘束力はありませんが、この最低敷地面積123㎡は慣行として定着しています。常盤台の美しい街並み、特に一低層の地域の優美さを維持するにはやはり最低123㎡(37.3坪)の敷地規模は必要であるということが言えます。

第IV世代への相続、遺産分割のピークを2020年代、30年代に迎えようとする前に東京都のしゃれ街条例による、ときわ台しゃれ街ガイドラインとしての最低敷地面積123㎡、そして都市計画法による最低敷地面積100㎡が制定されたことは極めて大きな意味を持ちます。優美な常盤台住宅地を守る最低限の規制が布かれたと言えます。

ライフスタイル、価値観の変化から100坪規模の敷地を求めるニーズは乏しい

一方、分譲時には1区画100坪〜150坪、大きいものでは250坪近い区画もあったわけですが、地価の高騰という理由だけでなく、世帯人数の著しい減少、特に三世代同居の減少、単身世帯の増加、共働き世帯の増加、少子化、晩婚化、生涯独身率の増加による出生率の減少、著しい高齢化、都市への人口集中など、人々の価値観、ライフスタイルの変化により、東京都心近郊において自宅として100坪規模の敷地面積を求めるニーズは乏しいといえるでしょう。[15] 

常盤台の魅力を保つため適切な敷地規模を維持、特に緑を豊かにする、と同時に少子高齢化、ITの進展に対応した住宅の機能性を高めることがむしろ求められているのではないでしょうか。そのあり方をもう一度住民、行政、関係者が議論し、街づくりをしていくことが大切であると思います。

多区画所有者の存在:常盤台住宅地の特徴のひとつ:

戦時中農地として利用された更地、遊休資産の存在

もう一つ加えたいことは、常盤台住宅地の分譲時において多区画購入者が多くいたことは常盤台住宅地の敷地規模の維持にプラスの影響を与えたのではないかということです。戦中には常盤台住宅地の30%近い区画が更地として農地に転用されていました。これらの更地はほとんど常盤台住宅地の多区画購入者でした。

1950年代前半に第I世代から第II世代への相続が発生するわけですが、この時期にはこれらの遊休資産が財産分与されたのではないか、という推定が可能です。

常盤台住宅地の企業経営者・オーナー一族

また、戦後これら更地の購入者には、常盤台住宅地の北側の前野町、志村地区の企業経営者、オーナーが多く含まれていたと思われます。このエリアは、戦後、光学、測量機器、印刷を中心として城北工業地帯として繁栄することになります。もともと板橋区の加賀に陸軍直営の板橋火薬製造所があり、昭和になって軍需生産を目的として工場が建設されるようになるのです。満州事変以降、昭和8、9年頃から板橋区に工場の進出が目立ち始め、戦時体制に移行する昭和10年からその増加がますます顕著になります。[16]

戦災による被害が少なかった板橋区は戦後立ち直りが早く、これら軍需工場が平和産業に転換し隆盛をみることになりました。ただし、1960年代後半から工場は近隣他県へと移転していきます。

現在では、このエリアは住宅地域へと変化し、多くの大規模マンションが建設されています。しかし、生産部門は去った現在でも、前野町、志村エリアには、いくつかの有力企業の本社、管理部門、研究部門、物流部門が残っています。そして常盤台住宅地にはそうした企業の経営者・オーナー一族の大きな屋敷が何軒も存在しています。

土地の用途の多様性を許容する

多区画所有者が多いのが常盤台住宅地の特徴のひとつであり、自宅以外の区画を共同住宅や月極駐車場や時間貸駐車場に利用しています。多区画所有者の存在は、敷地細分化を防いでいる側面があります。田園調布や成城にみられるように、それらを厳しく規制するというスタンスは常盤台にはかえって敷地細分化をうながしマイナスに作用する可能性があります。緑化の推進、特に沿道部の緑化をうながすことがことが適切であると考えられます。

[1] 常盤台学生会が昭和21年に作成した「常盤台町内地図」に記載された258人中、100人について購入時の年代が判明しています。

[2] 「平成23年版厚生労働白書」、「ライフスタイル・生活に関する論点について」(国土交通省・国土審議会計画部会 配布資料 H17/11/10)

[3] 夫余命11.0 = 死亡年齢61.3 – 購入時年齢49.3

[4] 妻余命15.0 = 死亡年齢61.5 – 夫の購入時年齢49.3 + 夫との年の差2.8

[5] 第I世代の女性(妻)死亡が61.5、長子が生まれたのが23.6なので、死亡時に長子(第II世代の夫)は37.9(= 61.5 – 23.6)と推定されます。

[6] 妻35.1 = 夫37.9 – 夫婦年齢差2.8(= 26.6 – 23.8)

[7] 31.4 =夫の死亡年齢69.3 – 37.9

[8] 37.5= 妻の死亡年齢72.6 – 35.15

[9] 第II世代夫死亡1984.4 = 第II世代第2次相続時1953 + 夫余命31.4

[10] 第II世代妻死亡1990.5 = 第II世代第2次相続時1953 + 妻余命37.5

[11] 第III世代夫年齢47.1(1990年時) = 母死亡年齢72.6 – 長子誕生時母年齢25.5

[12] 第III世代妻年齢44.6(1990年時) = 夫年齢47.1 – 夫との年齢差2.5(= 28.4 – 25.9)

[13] 第III世代夫余命30.0 = 77.1 – 47.1

[14] 第III世代妻余命38.0 = 82.6 – 44.6

[15] 思いつくままに関連するトレンドを述べると、全国の平均世帯人員は1940年の4.99人から2015年には2.36人と半分以下に減少、出生率の減少、三世代同居の減少、増加する高齢者を含む単身世帯の増加(1960年1%->2005年29.5%)、IT社会の進展などがあります。

[16] 「板橋工業五十年のあゆみ」板橋区役所、1972

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