英訳 万葉撰歌-66 Selected Poems of Manyoshu-66 (2-126)

中湖 康太

みやびをと 我は聞けるを やど貸(カ)さず われを帰せり おそのみやびを

I heard he was a person of refined taste, but no way.
What a stupid elegance, without holding me back, just turning me away!

石川女郎の大伴宿禰田主(オホトモノスクネタヌシ)に贈れる歌一首
 即ち佐保大納言大伴卿の第二子、母を巨勢朝臣(コセノアソン)といふ

みやびをと 我は聞けるを やど貸(カ)さず われを帰せり おそのみやびを

大伴田主は字(アザナ)を仲郎(チウラウ)といへり。容姿佳艶しく風流秀絶れたり。見る人聞く者の歎息せざるはなし。時に石川女郎といへるもの有り。自ら双栖(サウセイ)の感(オモヒ)を成して、恒に独守の難きを悲しび、意(ココロ)に書を寄せむと欲(オモ)ひて未だ良信に逢はざりき。ここに方便を作して賎しき嫗(オミナ)に似せて己れ堝子(ナベ)を提(サ)げて、寝の側に到りて、哽音蹢足(キャウオンテキソク)して戸を叩(タタ)き諮(ハカ)りて曰はく、「東の隣(リン)の貧しき女、将に火を取らむと来れり」といへり。ここに仲郎(チウラウ)、暗き裏に冒隠(ボウイン)の形を識らず。慮(オモヒ)の外に拘接(カウセフ)の計りごとに堪へず。念ひのまにまに火を取り、路に就きて帰り去らしむ。明けて後、女郎(イラツメ)すでに自媒(ジバイ)の愧(ハ)づべきを恥ぢ、また心の契の果さざるを恨みき。因りてこの歌を作りて謔戯(キャクキ)を贈りぬ。

(現代語訳)
石川女郎が大伴宿禰田主に贈った歌一首
 即ち佐保大納言大伴卿の第二子、母を巨勢朝臣という

風流なお方と私は聞いておりましたのに、引きとめもしないでお帰しになるとは、間抜けなみやびなお方だこと。

大伴田主は呼び名を仲郎といった。容姿美しく洗練された感覚の持主であった。見る者も伝え聞く者もみな感心したことである。さて、石川女郎という女性がいた。田主に対して、いつか結婚を願うようになり、ひとり寝のつづくことを悲しむのが常であった。ひそかに便りをよせようと思いながら、機会に恵まれなかった。そこで一計を案じ、賤しい老婆の姿をしてみずから鍋を持って田主の寝所に近つき、口ごもり足もとをふらつかせて戸を叩いて、偽っていった。「東隣の貧しい女ですが、火をお借りしに来ました」この時田主は暗闇で身をやつした姿がわからず、女郎の求婚の意図など思いも及ばなかった。だからいわれるままに火をとり、同じ道を帰らせた。翌朝、女郎は臆面もなくみずからおしかけていったことを恥じ、目的を遂げなかったことを恨めしく思った。そこでこの歌を作って、冗談をいったのだった。

A poem sent by Ishikawa No Iratsume to Ohotomo No Sukune Ta Nushi,
the second child of Saho Dainagon Otomo. Kose No Ason is his mother.

I heard he was a person of refined taste, but no way.
What a stupid elegance he has, without holding me back, turning me away.

Otomo No Nushi was called Churau, goo looking and refined person. People who see and hear of him were impressed. Besides, there was a woman called Ishikawa No Iratsume. In due course, she came to love him, longing for marriage with him. She was sad about sleeping herself alone. She wished to send him a letter but in vain, lack of opportunities. Then she came up with a plan, disguising herself as a mean old woman, holing a pot with her, and visited his bed room. She knocked the door, stuttering and walking shaky, and said, ‘I am a woman from the next door to the east, and come here to borrow a light.’  Then, Ta Nushi was unaware of her disguised figure in the dark, let alone, her intention of marriage proposal. Therefore, he just gave her a light, and turned her back away on the same road. Next morning, Iratsume was ashamed of her visit to him, and felt resentful of it, her purpose unfulfilled. Then she produced the poem above self-mockingly.

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