バリュー投資入門(12)バフェット2008(4)失敗

中湖 康太

市場下落のダメージを被ったが結果としてアウトパフォームした

バークシャーの投資活動について見てみよう。2008年金融危機、リーマンショックの時のものだ。

バークシャーは毎年、普通株式の主要銘柄と市場性有価証券(普通株)の期末評価額を公表している。売買、銘柄の変動があるため単純な比較はできないが、大まかなパフォーマンスをつかむために、2007年と2008年を比較してみよう。2007年はコスト39,252百万ドルに対して市場価値74,999百万ドル、2008年はコスト37,135百万ドルに対して市場価値49,073百万ドルである。市場価値は34.6%下落している。S&P500は、37.0%の下落である。バークシャーは2.4%ポイント下落率が低い。ポイントはここである。

バフェットのおかした2つのしくじり

バフェットといえどもこの市場の下落は予期せぬものだったことがわかる。特に、序論で述べた2つのしくじり(失敗)が大きく響いたと言えるだろう。

第1の大きなしくじり:石油株の購入

2つの失敗とは、第1に、バフェット自身、手数料(上場普通株式の売買のこと)の大きなしくじり(失敗)と述べている石油株の購入である。その石油株とはConoco Phillipsである。バフェットは、石油価格のほぼピークで同社株を購入し、その後の大幅下落を予想できなかったと述べている。石油価格はいずれ大幅に回復すると述べていることに注目したい。但し、購入のタイミングについてはいずれにしても間違いだったと反省している。

第2のしくじり: アイルランドの2つの銀行株の購入

第2のしくじりとは、いくつかの小さな失敗と序論で述べたが、実際はかなりの痛手であったという2つのアイルランドの銀行株への投資。割安と判断して購入したが、期末にはほぼ十分の一になった。2008年には、銀行株の下落により多くの投資家がダメージを被ったのである。

投資に「タラレバ」は無い

投資には「タラレバ」は無いというのがわたしの意見であり、ほとんどの人が同意するだろう。投資活動において市場を振り返って、あれはタイミングの誤りだった、ということはほとんど無意味である。

バフェットが「しくじり」と言っていることも、これは株主レターである性質上、結果として「誤りだった」と言っているに過ぎない。株主総会というのは結果の報告場所であるからだ。本音は割安と判断したから買ったということだろう。結果として逆にでた。こんなことは投資という行為では当たり前の話である。

重要なのは仮説を磨くこと

投資というのは、投資対象を評価して、今後を予想し、仮説をたてて、基本的には資金を投下、または引き上げる行為である。重要なのは、分析調査し、経験、実践の中で仮説のたてかたを磨くこと、結果からフィードバックすること。

バフェット、チャーリーというα(アルファ)

ポイントは、繰り返しになるが、結果として市場をアウトパフォームしたことである。そして、ほぼ首尾一貫してアウトパフォームしている。それこそが、バークシャーを率いるバフェット、チャーリーのすばらしさ、ファイナンス理論でいうα(アルファ)なのである。

そのアルファの源泉を探るのが本稿の目的である。

以下、バフェットの言葉(中湖抄訳: 小見出し中湖付与)

投資活動(INVESTMENTS) – Part 1

2008年末の普通株式ポートフォリオ

今年から会計基準の変更に伴い、大量の普通株の保有を2つの種類に分けた。下表は、第1の種類に属し、バランスシート上で年末に市場価値が5億ドル以上のものである。

12/31/2008現在
株数      銘柄名        保有比率%   コスト*      市場価値(百万ドル)
151,610,700  American Express  13.1     $1,287      $2,812
200,000,000  The Coca-Cola    8.6     1,299        9,054
84,896,273    ConocoPhillips    5.7     7,008      4,398
30,009,591    Johnson & Johnson     1.1              1,847              1,795
130,272,500      Kraft Foods Inc.          8.9              4,330              3,498
3,947,554          POSCO                       5.2               768              1,191
91,941,010        The Procter & Gamble  3.1               643              5,684
22,111,966        Sanofi-Aventis             1.7            1,827              1,404
11,262,000        Swiss Re                     3.2               773                530
227,307,000      Tesco plc                     2.9            1,326              1,193
75,145,426        U.S. Bancorp               4.3            2,337             1,879
19,944,300        Wal-Mart Stores, Inc.   0.5               942             1,118
1,727,765          The Washington Post  18.4                11                674
304,392,068      Wells Fargo                  7.2           6,702            8,973
           Others                                        6,035            4,870
            Total Common Stocks Carried at Market   $37,135        $49,073

*コスト(Cost)は実際の購入価額であり、米国会計基準(US-GAPP)の取得原価(cost)とは異なる。

これらに加えて、Moody’sとBurlington Northern Santa Feを持分法(通常20%以上の保有に適用される)により保有している。これらは、取得以来のコストに留保利益を加え、税額(配当がある場合の課税)を控除して計上している。

読めなかった石油価格

冒頭で、手数料(売買)についての大きなしくじり(失敗)をしたと述べた。チャーリーやその他からの勧めではなく、自らの判断で、石油ガス価格がほぼピークにある中で、ConocoPhillips株を大量に購入した。昨年後半の資源価格の大幅な下落を予期することはできなかった。現在40-50ドルの石油価格は、将来大幅に回復すると見込んでいる。しかし、これまでのところ私がひどく違っていた。価格が上昇したとしても、購入のタイミングをひどく誤ったことはバークシャーに何十億ドルもの損失を被らせることになったのである。

凡ミス(unforced erros)

この他にいくつか誤りをしたことは既に知られたことである。それらはより小さいものであるが、不幸にもそれほど小さくはなかった。2008年中に、割安と見て2億4,400万ドルで2つのアイルランドの銀行株を購入した。年末には、2,700万ドルに89%の評価減を行った。それからこの2つの株価はさらに下落している。テニスの観客はこれを”凡ミス”(unforced errors)と呼ぶだろう。

http://www.berkshirehathaway.com/letters/2008ltr.pdf

(続く)

2018/10/8

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