新・利他の経済学-1 The New Economics of Altruism

中湖 康太

新・利他の経済学-1 The New Economics of Altruism – 株式会社ゼネラル・カラー・サービス 中湖康太 経済文化コラム (general-cs.tokyo)

はじめに

本書は実践者の立場から経済学をとらえなおしたものです。「経済学ほど役に立つ学問はない」というのが筆者の実生活者、ビジネス経験を通した感想です。しかし、2017年に書いた本書の前身にあたる『利他の経済学』で書いたように、「自己の利益の最大化」を目的に行動することは、実学としての経済学の真価を発揮することはできない、というのが実践を通しての結論です。では何を目的に行動すれば経済学のパワーを発揮できるのか?

それは、利他の視点で行動する、「人類・地球・宇宙の利益の最大化」を目的に行動することです。それが実生活、ビジネスにおいて経済学の真価、パワーを発揮することになります。

経済学の祖といわれるアダム・スミスの著書のタイトルは、「諸国民の富」(”An Inquiry into the Nature and Causes of the Wealth of Nations”)です。「国富論」とも略称されます。つまり、経済学というのはもともと諸国民、言い換えれば人々の富の性質とそれがいかに高まるか、ということを解明した学問なのです。

アダム・スミスは「諸国民の富」の中で、有名な『見えざる手』(“an invisible hand”)という言葉を使って次のように述べています。

「見えざる手に導かれて彼の意図ではない結果を促進している。それは彼自身の意図でないにしても、社会にとって悪いわけではない。自己の利益を追求することで、真剣に社会の利益を高めようとするときよりも、より効果的に社会の利益を高めるていることがしばしばである」

“…led by an invisible hand to promote an end which was no part of his intention. Nor is it always the worse for the society that it was no part of it. By pursuing his own interest, he frequently promotes that of the society more effectually than when he really intends to promote it.”

アダム・スミスのこの説明により「自己の利益の追求」、「自己の利益最大化」が経済学の目的として定着したわけです。しかし、スミスが明らかにしようとしているのは、あくまでも「諸国民の富」がいかに高まるか、ということなのです。

つまり、自己利益、私的利益の追求は、諸国民の富の増大につながるので好ましいインセンティブとされる、ということになるでしょう。社会科学としての経済学は、基本的にはサイエンスとして価値判断からは距離を置く、というスタンスをとっているといえます。しかし、そこには暗黙の了解がやはりあると思います。それはやはり、諸国民の富、地球的利益を高めるがゆえに、私的利益の追求はインセンティブとして好ましい、しかし、それが地球的利益に反するときは、チェック、レビューされるべきだ、ということになるでしょう。

インセンティブは人間の行動において重要な役割を果たします。実践的な経済学にとってキーワードであるといってよいでしょう。アダム・スミスが目につけたのはまさに、諸国民の富を生み、高めるための人間行動の「インセンティブ」なのです。

今日の代表的な経済学テクストのひとつである「経済学原理」(Principles of Economics)の中で、マンキュー(N. Gregory Mankiw)は、この「インセンティブ」をことのほか重視しています。それが、米国の歴代の代表的経済学テキストの中でも、このマンキューのテクストの特徴といってよいでしょう。

実際、経済学の実践において、様々な経済事象の背後にあるインセンティブを理解することはとても重要なことです。事業、投資などの際に、インセンティブに着目することが良い結果につながる可能性を高めるというのが、わたしの経験からもいえることです。経済学は社会科学として、基本的には価値判断から距離をおきます。しかし、サイエンスと実践をつなぐのは、このインセンティブであり、価値判断が関係してくるといえます。そして、インセンティブに着目することが、経済学を実践の学、実学とたらしめるキーファクターのひとつです。

地球環境問題に代表されるように、外部不経済の発生により、あくなき自己利益の追求は大きな弊害を生むことが明らかになっています。資本市場においてもESG(Environmental, Social, and Corporate Governance)が重視されているのはことためといってよいでしょう。

つまり、人類・地球・宇宙の富(Wealth)、余剰(Surplus)、ないし利益(Interest)を高めることが求められているのです。

本書は、このような視点にたって、実践者の立場から経済学を説明しています。逆説的になりますが、そこで明らかになってくるのは、経済学がいかに経済社会の法則、メカニズム、つまり真理を描き出しているか、というです。

真理の把握こそ、実践の根幹です。経済学が実践の学、実学のゆえんです。

また、本書では、経済学の法則をわかりやすく示した、著者が先に発表している「経済学短歌」もあわせて掲載しています。

本書が、多くの生活者、実践者、ビジネスマン・ウーマンまた研究者の参考になれば、著者としてこの上ない喜びです。

2021年10月

中湖 康太

 

 

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