日本郵政の野村不動産ホールディングス買収報道に関する試験的一考察

先週5月12日(金)の引け後、日本郵政による野村不動産ホールディングス(以下、野村不動産H)買収のニュースが各メディアで報道された。日本郵政は、メディア報道を受け、「本日、NHKニュース等、一部報道機関により、国内の不動産会社買収に関する報道がありましたが、本件は当社が発表したものではありません。当社においては、新たな資本業務提携について様々な可能性を検討しているところであり、開示すべき事実が決定された場合には速やかに公表いたします。」と 適時開示を行った。インサイダー取引や、風説の流布を回避するため意図的に非公式にメディアに伝達したとも推定される。

同報道を受けて、週明けの15日の日本郵政、野村不動産ホールディングの株価に与える影響、戦略的意義、買収の選択肢、課題等について試験的な考察を行いたい。(なお、本稿は、あくまで情報提供目的であり、また、その内容の正確性、真実性、確実性等について保証するものではありません。For Purely Infromation Purpose Only. No gurantees for its accurateness, reliability, completeness, etc.) 

  • マージャ―アービトラージ(Merger Arbitrage)のセオリー通り、買収ターゲットの野村不動産Hの株価が高騰し、日本郵政の株価は上昇しても限定的なものとなる、またはプレミアムを支払う買収の効果にマーケットが懐疑的な場合は下落する可能性もあると推定される。
 
  • 買収が実行される場合、日本郵政はTOBにより、野村不動産H株を取得するであろう。野村不動産Hが仮に買収に賛同したとしても、希薄化を伴う、新株発行、第三者割当を行う可能性は無いといってよいだろう。
 
  • 日本郵政の選択肢は、TOBによって、大まかに言えば、野村不動産Hの、①20%超の取得(関連会社化)、②50%超の取得(子会社化)、③完全買収(100%)の3つの選択肢があるであろう。ただし、野村不動産Hの親会社である野村ホールディングスが、本業の投資事業において重要なアセット・クラスである同社持分を引き下げることは無いと推定されることから、①20%超の取得(関連会社化)、又は、②50%超の取得(子会社化)のいずれかになるであろう。
 
  • ただし、日本郵政は、不動産事業を本業とする戦略的意図があると推定されるので、②の可能性が高いと推定される。
 
  • 日本郵政は、TOBにあたり買収公表前の株価に比べ、40%超のプレミアムを支払う必要があると予想される。仮に5月12日の終値(2018円)を基準にすると、2839円となる。2839円での、野村不動産Hのバリュエーションは添付の資料の通りである。野村不動産Hは現在、主要不動産類似企業平均との単純数値比較で、PBRで42%、PERで46%のディスカウントである。このため、12日終値比で40%のプレミアム払ったとしても、数値比較ではなお、PBRで24%、PERで18%のディスカウントである。ほぼ同規模の東急不動産Hとの比較でも、12日株価ベースで、PBRで8%、PERで22%のディスカウント。
 
  • 野村不動産Hとしても、かかる市場の低評価の是正が課題であることを考慮すると、日本郵政のTOBは好ましいということになる。
 
  • また、不動産会社のバリュエーションには規模のプレミアムが付いていることを考慮しても、連結ベースで1.5兆円強の土地資産を持つ、日本郵政買収提案は、好ましいものといえる。
 
  • 日本郵政は、買収の起点となる単体ベースで、3551億円(2016年9月中間期)の現預金を有している。また、保有する、ゆうちょ銀、かんぽ生命の株式持分時価は12日ベースで7.8兆円となっている。野村不動産Hの12日終値比40%プレミアム株価2839円で同社の時価総額は、5448億円であり、仮に50%を取得すると、必要資金は2724億円となる。つまり、少なくとも現状のところ手持ち資金で買収可能である。但し、買収後の戦略展開に必要な資金を考慮すれば、IPO時のストーリーに従って、ゆうちょ銀、かんぽの持分を売り出すことは想定される。
 
  • 日本郵政は、今後、ゆうちょ銀、かんぽ生命株式の売却にしたがって、売却資金でそれを上回る価値を生み出していく必要があるが、本業の郵便・物流事業は、2016年9月中間期の連結セグメント情報によれば約408億円の赤字であり、国際物流事業も、IPO時にGCSが指摘した懸念のように、買収した豪トール社のプレミアムに見合う収益を上げることができず、本年4月25日に、日本郵便単体業績においてトール社に係る関係会社株式評価損約5450億円を計上するにいたった。
 
  • 実質的には、日本郵政の配当原資は、ゆうちょ銀、かんぽ生命からの配当金にほとんど依存している状況であると推定される。
 
  • 日本郵政の不動産事業の本業、収益化もそう容易なことではないと推定される。GCSでは、販売不動産を除く、主要不動産会社の固定資産の土地、建物に着目をして比較をおこなった(添付資料参照)。これによれば、土地価値に比較して、日本郵政(連結)の建物(純額)の比率が、不動産会社平均の約4割に対して、8割に達している。賃貸用不動産には時価評価が行われることから(事業用不動産は取得原価)、単純な比較はできないが、日本郵政が保有する土地の上には、当然のことながら、現に本業たる郵便・物流事業に供している建物が存在し、用途転換はそう容易ではないことも推定される。また、株式の売却資金で今後、土地建物を取得するにしても、現在不動産売買市場におけるキャップレートは前回ピークを下回り、特に都心プライムエリアは2%台という低水準にあり、ゆうちょ銀(3.56%)、かんぽ生命(2.34%)の配当利回りを上回る収益を得ることはかならずしも容易ではない、と推定される。
 
  • 野村不動産Hにとっては、今後の事業展開にあたり不動産のソーシングと資金力を得るわけであり、野村Hにとっても持分比率を維持し、持分価値を高めることができるわけである。
 
  • 課題は企業カルチャーの違いの克服であろう。野村証券グループの資本市場のドライなカルチャーと日本郵政・郵便の官業のカルチャーの障壁は思ったより高いかもしれない。
 
  • 日本郵政が、売却する有価証券/事業以上の収益、価値を生み出す事業を育て、見出す長い旅はこれからが本番である。
 

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