‘経済・投資 Money’ カテゴリ
ケインズの投資-32 シティでの活動 事後評価-1 Keynes’ Investments-32 Activities in the City – Post Mortem-1
2025-08-23
シティでの活動 事後評価-1
事後評価の重要性
下記は、ケインズがプロヴィンシャル保険会社のために書いた覚書 (1938年3月7日付)。これは、投資会社の役員としては、当たり前のことかもしれないが、ケインズは常に自己が関わる投資について事後評価、時価評価を行っていた。この行為自体が投資成果を直接左右するものではないが、常に自らのポジションを定量的に評価することが、次の行動、ひいてはパフォーマンスの向上に繋がると言ってよいだろう。
以下、プロヴィンシャルの役員会のために書いたケインズの覚書。
プロヴィンシャル保険会社のための覚書 (1938年3月7日)
投資結果
I. プロヴィンシャルとナショナル・ミューチュアルの比較
1. 英スターリング普通株
プロヴィンシャルとについては、詳細な統計は1929年初からになる。1937年12月31日に、評価益は取得価額に対して53%になって... → 続きを読む
ケインズの投資-31 美人投票説とバリュー投資 Keynes’ Investments-31 Keynes’ Beauty Contest Theory and Value Investment
2025-08-22
ケインズの美人投票説とバリュー投資の確立
ケインズの経済学と投資活動
投資家としてのケインズは、個人での投資の他に、母校キングスカレッジ、シティではナショナル・ミューチュアル、プロビィンシャルという保険会社の資産運用に役員としてかかわっていた。ケインズの理論的、論理的かつ実践的な経済学には、まぎれもなくケインズの投資家としての経験が反映されていた。
ウォールストリートの美人投票説
ケインズ一般理論における資本市場観、特に株式市場観には、市場の非効率性に関連する言説がある。美人投票説がその典型だが、ウォールストリート、米国株式市場のあり方に対する批判も手厳しい。ケインズ(1983-1946)が活躍したのは20世紀前半だ。
ケインズの「一般理論」とベンジャミン・グラハムの「証券分析」
米国でバリュー投資のバイブルといわれるベンジャミン・グラハムの「証券分析」が出版されたのは1934... → 続きを読む
ケインズの投資-30 45年総選挙の結果(チャーチル敗退)を受けて Keynes’ Investments-10 Upon the result of the General Election of 1945 (the defeat of Churchill)
2025-08-19
追伸 結論は変わらず、むしろ強める
つむじ曲がり?の1945年イギリス総選挙
イギリスでは終戦時1945年7月5日に総選挙が行われた。大戦を勝利に導いた保守党のチャーチルが敗れた。労働党が単独過半数の議席を獲得し、労働党党首クレメント・アトリーが首相の座についた。つむじ曲がりのいかにもイギリスらしい結果といえるだろうか?
金融緩和、賃金物価上昇を予測 株式保有増加を示唆
ケインズのこのF.C.スコットへの書簡は、45年7月25日付けだが、以下の追伸で、選挙前に書いたが、選挙結果を待って送付することにした、と記されている。そこでは、当面は不安定な状況があるだろうが、選挙前に書いた結論に変化は無く、むしろ強めるだろうとしている。その第一の理由が、新内閣が、金融緩和に動くだろうから、というものだった。ここでも、ケインズは、物価上昇を予想し、株式の投資を増やすことを示唆している。
【F.... → 続きを読む
ケインズの投資-29 よろしくない事態 Keynes’ Investments-29 Less favourable conditions
2025-08-18
よろしくない事態 Less favourable conditions
タックスシールドの活用
ケインズは、投資家としては当然のことではあるが、タックスシールドを強く意識して投資していた。実現益に実現損をぶつけることで節税できる。これは、実務上、極めて重要なことである。ケインズは、こうしたテクニカルな面も大変重視した。ケインズのすばらしさはこういった点にもある。
高いキャッシュ・ポジションは危険 ー 株式に投資すべき
書簡の最後でも、高いキャッシュポジションはリスクであると指摘している。十分投資することが適切であるとの趣旨を繰り返している。よろしくない状況 (less favourable conditions) とは、貨幣価値の下落と解される。
以下、ケインズの書簡の続き。
【F.C.スコットへの書簡 1945年7月25日付】(続き)
私の予想では、いずれこれらの傾向は、現... → 続きを読む
ケインズの投資-28 キャッシュ・ポジションについての意見の相違 Keynes’ Investments-28 Dispute over cash position
2025-08-17
キャッシュ・ポジションについての意見の相違
保険会社の流動性
キャッシュポジションを減らすべきとしたケインズの意見に反して、スコットは突然、銀行預金ポジションを増やした。両者の意見の相違は縮まらなかったようだ。
ケインズは、保険会社は一般的に流動性が高いこと、また、プロヴィンシャルは不動産資産をあまり持たないため、特にそうであることを指摘し、キャッシュ・ポジションを増やす必要は無いと述べている。市場性有価証券は流動性が高いことを考慮すべき、としている。
貨幣価値の下落と株式の過小評価
終戦時にあたって、貨幣価値の下落が続くだろうと指摘している。そして、貨幣価値の下落に対して、また、利子率の下落に対して、株式は割安に評価されており、今後そのパフォーマンスが際立って良くなるだろう、という趣旨のことを述べている。
バリュー投資の先駆者ケインズ
優れた経済学者としての知見とプラクティ... → 続きを読む
ケインズの投資-27 キングスとプロヴィンシャルの比較 Keynes’ Investments-27 Comparison between Kings’ and Provincial
2025-08-09
キングスとプロヴィンシャルの比較
ケインズは、自身が関与する、キングスとプロヴィンシャルの過去20年にわたる記録を比較して、事後評価を行った結果を、スコットに示している。
両者の投資方針はほぼ同様で、結果として概ね成功しているが、キングスの方が、より良いパフォーマンスを示している。それは、キングスが運用資産規模は小さいが、より徹底的に、選択した少数証券への集中投資を行っているためだ。(KNコメント)
【F.C.スコットへの書簡 1942年2月6日付】(続き)
(5) プロヴィンシャルで実際に取り組んでいる状態は、わたしが思い描く完全な姿から、かなりかけ離れた、高くつく妥協です。過去20年にわたるプロヴィンシャルとキングスの会計が示す、極めて良い実験結果、比較がありました。キングスの投資のギルトエッジ証券とその他の証券の広がりは、ほぼ同様です。過度のリスクを嫌い、インカムの安定性を好... → 続きを読む
ケインズの投資-26 安全第一とは? Keynes’ Investments-26 What is Safty-first?
2025-08-08
安全第一とは? - What is Safety-first?
ここでケインズは、安全第一という投資方針について、「異なる方向性をもつ小さなギャンブルを多数持つことにある」のでは無い、「(少数の)*十分な情報がある会社に大きな持分を持つ」ことこそが、安全第一である、と主張する。ケインズが「安全第一」とするのは、ポートフォリオ運用における分散投資という概念にあたるといってよいだろう。(KNコメント)
【F.C.スコットへの書簡 1942年2月6日付】(続き)
(4) キャピタルゲイン狙いの投機的投資の良い例は、南ア株や紛争地域の石油会社などです。のような投資でキャピタルゲインを得られる可能性を仮初めにも、否定すべきではないでしょう。しかし、このような投資に賛成できないのは、適正な判断を下すための情報が欠如していることであり、そのリスクは明らかに多大です。安全第一というのが、十分な情報が... → 続きを読む
ケインズの投資-25 一海運会社への大量投資 Keynes’ Investment-25 Large investment in one particular security
2025-08-08
エルダー・デンプスタ― - 一海運会社への大量投資
エルダー・デンプスタ―*について、1942年1月28日にスコットからの手紙があり、それに対して回答したケインズの書簡。
エルダー・デンプスターに大量に投資したことの釈明。ここでも、買い過ぎたことを認める一方、その正当性を主張している。
と同時に、ケインズの投資法の究極のポイントを説明している。それは、第一に、「資産価値と本質的な稼ぐ力(収益力)について満足でき、市場価格がこれらに比して割安な証券を買うこと」(本源的価値)であり、第二に、「時間と機会には限りがあり、十分な情報を持って、きちんと判断できる証券の数は多くない、一銘柄当たりの投資額をできるだけ大きくする」(少数銘柄への集中投資)、というものだ。(KNコメント)
* エルダー・デンプスタ―は、リバプールに本社を置き、19世紀後半から20世紀後半にかけて、西ヨーロッパと西アフ... → 続きを読む
ケインズの投資-24 アルファ(α)を説明する苦労 Keynes’ Investment-24 Difficulty to explain alpha(α)
2025-08-07
アルファ(α)を説明する苦労
優れた投資パフォーマンスは、アルファ(α)が生み出すものだろう。かなりの裁量をもっていたとは言え、ケインズは、しばしば、その投資判断についての説明、説得を(強いられて?)行っている。個人の運用の方が、「プロヴィンシャルやキングスの運用よりもかなり良い」とケインズは、前にも述べている。他者にはない、独自な視点、アルファ(α)をもっているがゆえの優れた投資パフォーマンスであり、それは、同時に他者にはなかなか理解できないしろものであろう。だからこそアルファなわけである。運用会社の他の役員の理解を得ながら行うというのは一苦労だったと推察される。(以上、KNコメント)
一つの良い株は、10の悪い株よりも安全
「1つの良い株は10の悪い株より安全」というのは、ケインズの「厳選された少数株への集中投資」という投資三原則の一つを示している。また、そういった良い株に、(割... → 続きを読む
ケインズの投資-23 少数銘柄への集中投資 Keynes’ Investment-23 Thick and Thin
2025-08-05
少数銘柄への集中投資
6つのペット(証券)の大量保有、そして売り時
F.C.スコットへの書簡でケインズは、少数株(6つのペット)の大量保有こそが、ほとんどの利益を生み出すことを説いている。と同時に、6ヵ月以上先のことをさらに追い求めることはないとして、その保有を減らすことの妥当性を説明している。
肝心なのは、次の投資対象
投資において大切なのは、もちろん6つのペットを見出し、そこに大量投資することだが、一方、6つのペットがアウトパフォームした後に、次のアクションをどうするか、である。ケインズは、ここで、EPLとUGの優先証券が大きな稼ぎを上げ、価格が上昇したことを明示すると共に、実は、そのポジションを減らすことを今度は述べているわけである。
6ヵ月以上先のことは追い求めない
つまり、肝心なのは、6つのペットが稼いだ売却資金を今度はどこに振り向けるか、である。この... → 続きを読む
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