新・利他の経済学-3 The New Economics of Altruism

中湖 康太

新・利他の経済学-3 The New Economics of Altruism – 株式会社ゼネラル・カラー・サービス 中湖康太 経済文化コラム (general-cs.tokyo)

 

人類・地球・宇宙の豊かさの最大化

個性を輝かせるポイント ー 絶対優位ではなく比較優位

どのような状態が最も望ましいのでしょうか。経済学には、「比較優位の原則」があります。これは、19世紀英国の天才経済学者デービッド・リカードが国際貿易について述べたものです。自由貿易が諸国民の、世界的な富を増大させることを明らかにしています。この原則のポイントは、重要なのは「絶対的な」優位性ではなく、「相対的」な優位性である、ということです。リカードは、20世紀の大経済学者ジョン・メイナード・ケインズが「一般理論」で理論的対決をした相手ですが、同時にその透徹した論理性を称賛しています。

人々は様々な個性をもっています。それぞれの人が個性を輝かせることが、社会全体の利益を高めることになるのです。しかし、その人が絶対的に優位である必要はないのです。つまり、すべての人にそれぞれ社会全体の豊かさを高める役割があるし、それが求められている、ということになります。

これをさらにすすめると一般均衡につながるのではないかと思います。一般均衡とは、経済主体、平たく言えば各プレーヤーがそれぞれの相対的優位性を発揮して、社会全体の豊かさが最高度に高められ、同時に安定した状態を示しています。ここでは、社会全体の利益(満足度)と個人の満足度、幸せ度が同時に最高度に達しています。

パレート最適とは

経済学に「パレート最適」(Pareto Optimum)という概念があります。これは、所与の資源,技術,嗜好,所得分配のもとで,少なくとも一つの経済主体の経済状態を悪化させることなしには,他の経済主体の経済状態をこれ以上向上させることのできない状態です。パレート効率性とも呼ばれます。社会全体の富(Wealth)が最も高められた状態、つまり最適な資源配分が達成された状態を表しています。

次の2つの経済短歌でパレート最適の特徴を示しました。第一は、資源の最適配分、第二は、少なくとも一つの経済主体の経済状態を悪化させることなしには,他の経済主体の経済状態をこれ以上向上させることのできない状態であることです。

◎ パレートの 最適なるは 価格メカ* 通じた資源 最適配分 (経済学短歌)

    *価格メカニズム

◎ パレートの 最適なるは これ以上 他の犠牲なく 効用増えず (経済学短歌)


限界代替率均等の法則

パレート最適では、2財モデルでいうと、経済主体間の2財の限界代替率が等しくなっています。それを表したのが上図です。経済主体aのX財、Y財の無差別曲線と、経済主体bの無差別曲線の接点がパレート最適点です。接点Eを通る接線の傾きが限界代替率です。

パレート最適は、2財モデルだけでなく、複数の財市場を一括して分析する一般均衡分析における資源配分の効率性を判断する際にも用いられます。多数の消費者の効用最大化、生産者の利益最大化の観点から説明されます。パレート最適成立条件として、①財の完全利用、②経済主体の限界代替率の均等(あるいは、ある財について、各経済主体の1円当りの限界効用が等しくなる)、が挙げられます。パレート最適な資源配分を実現する消費点の軌跡は契約曲線と呼ばれます。契約曲線は、財の初期の配布量によって、多数のパレート最適な消費点が成立することを表したものです。

経済学の基本的な課題は何といっても生産要素の効率的配分ということになるでしょう。ここでは、資本と労働という2つの生産要素に絞って考えてみたいと思います。社会全体の資本の初期保有量をK、労働の初期保有量をLとします。

ここでは、便宜上、社会全体は、生産者AとBからなり、資本については、生産者AがKa、生産者BがKbの資本を生産活動に投入するとします。つまり、K=Ka + Kb です。労働については、生産者AがLa、生産者BがLbの労働を投入するとします。つまり、L=La + Lb です。社会的な豊かさが最大となる最適(効率的)な資源配分は、資本と労働の限界生産力の比(限界代替率)が、資本の限界生産力(効率)と労働の限界生産力の比、つまり資本と労働の価格比に等しい点において決定されます。すなわち、(dK/K)/(dL/L)=r/wです。ここで、rは資本の価格(資本の限界効率)であり、wは労働の価格(限界生産力=賃金率)です。rとwは市場において競争的に決定される市場価格です。生産における規模に関して収穫一定を仮定すれば、生産者AとBの労働と資本の最適投入量は、労働と資本の初期保有量に従って、多数の組み合わせが可能です。これは、上記の契約曲線に該当します。

オファーカーブ  Offer curve

オファーカーブというのは、ある(任意の)初期保有点を所与として、財間の相対価格が変化したときの、ある経済主体の予算線と無差別曲線の接点の軌跡です。注意すべきは、オファーカーブ上の点はパレート最適であるとは限りません。異なる経済主体間のオファーカーブの(初期保有点以外の)交点がパレート最適です。パレート最適は、相対価格が変化することによって達成されることになります。

 

◎ 財間の 相対価格 変化した 最適点を 結ぶオファーカーブ (経済学短歌)

◎ オファーカーブは 効用最大化 点の軌跡(アト) 相対価格の 変化に応じ (経済学短歌)

◎ 財間の 相対価格 変化して 効用最大化 点はシフトする (経済学短歌)

契約曲線 (Contract Curve)

契約曲線というのはパレート最適点の軌跡です。さらに言えば、初期保有点が変化したときのパレート最適点を結んだものともいえます。すなわち、初期保有点WiにはEiというパレート最適点が対応し、WiiにはEiiというパレート最適点が対応します。このパレート最適点を結んだものが契約曲線です。下図に示した通りです。

◎ 二者間の オファーカーブの 交点を 結んだ線が 契約曲線 (経済学短歌)

◎ 二者間の オファーカーブの 交点の 軌跡が契約 曲線と知る (経済学短歌)

◎ それぞれの 初期保有点(ショキホユーテン)に 従いて パレート最適 契約曲線 (経済学短歌)

厚生経済学(Welfare Economics)

厚生経済学は、どのような経済が望ましいのか、経済的厚生(economic welfare)が高められた状態か、という視点から分析研究するアプローチをとります。そのため規範的経済学と呼ばれます。これに対して、経済現象から経験的、帰納的に、また論理的、演繹的に経済法則を導き出し分析、研究するアプローチは実証経済学(Positive Economics)と呼ばれます。人類・地球・宇宙の豊かさの最大化は、パレート最適をコア概念とする厚生経済学(Welfare Economics)の延長線上にあるといえます。もちろん、その豊かさの最大化は、アニマルスピリッツにもとづく人間本来の行動であり、実証経済学のテーマであるともいえます。

ここでは、厚生経済学の2つの命題について簡単に述べたいと思います。それは、実証経済学と(規範的)厚生経済学との関係を述べたものともいえます。

(第一命題):「完全競争市場の下での任意の市場均衡はパレート最適である」
つまり、完全競争市場における市場均衡においてはパレート最適が成立しているということです。

◎ 完全な 競争市場 均衡は パレート最適 なりと説かるる (経済学短歌)

実証経済学における完全競争均衡は、規範的経済学、厚生経済学の視点からパレート最適点であるということを明らかにしたものです。

(第二命題):「経済の任意のパレート最適な資源配分は、経済主体の初期保有量の適切な再配分、又は所得の再分配を行うことにより、完全競争市場の下での市場均衡として達成することができる」

◎ 任意なる 初期保有点に それぞれの 完全競争 パレート最適 (経済学短歌)

第二命題は、厚生経済学、規範的経済学の立場から、所得の再配分の効果を示したものであるといえるでしょう。この第二命題は、直感的には、ケインズの有効需要の理論にもつながるものといえるでしょう。つまり、所得の再分配を行うことが、限界消費性向を高めることにつながるとするれば、財政・投資乗数の増大を通して、均衡国民所得を高めることが可能になるだろう、ということです。ただし、パレート最適点は所与の保有量における静的均衡であり、不完全雇用を含めたケインズの動的なマクロ均衡とは厳密には異なるでしょうが。 

 

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