ボラティリティ・ターゲット戦略(JAI誌2016年冬号より)

2016-12-09

「ボラティリティー・ターゲット戦略の成功を予測する: 株式その他の資産への適用」(R.パーチェット他、オルタナティブ・インベストメント・ジャーナル誌、2016年冬号;“Predicting the Success of Volatility Targeting Strategies: Application to Equities and Other Asset Classes”, ROMAIN PERCHET etc., JOURNAL OF ALTERNATIVE INVESTMENTS; WINTER 2016 )

本調査レポートは、BNPパリバ・インベストメント・パートナーズのファイナンシャル・エンジニアリング部門チームによるもの(The authors are the Financial Engineering team at BNP Paribas Investment Partners in Paris, France)。

今年の株式市場はボラティリティの年

本年の日本株市場も残りあと1ヵ月を切ったわけであるが、まさにボラティリティ(変動)の年であったという感が強い。TOPIXは年初1532.53で始まり、1月4日に1544.73の高値を付けた。原油価格の急落により下げに転じ、日銀のマイナス金利導入が1月29日に発表されたが、銀行株の大幅下落などにより株式市場は冴えない動きとなった。為替もマイナス金利にも関わらず円高基調を続けた。

英国の国民投票で予想外のEU離脱が決定したことにより、6月24日に1192.80の年初来安値を付けた。その後、やや持ち直し1300台を回復したが、米大統領選で11月9日に共和党トランプの勝利が判明すると、不透明感から1287.39まで急落した。しかし、トランプ政権への期待、好調な米国経済動向により、急速に持ち直し、12月8日終値は1512.69となった。

年初からみるとマイナス1.3%、配当落ちを考慮するとプラス1%程度と推定される。リスクフリーレートを0%、株式投資へのリスクプレミアムを3%程度と仮定すると、プラス1%では期待収益率を下回っているといえる。この程度のリターンでは、通常の投資家はリスクの高い株式投資をする気にはなれないであろう(ここではバイ・アンド・ホールドのパッシブ運用を前提としている)。しかも、年初に高値を付けた後、低迷を続け、最近になりようやく持ち直してきてこの程度である。

ボラティリティをコントロールしてパフォーマンスを向上させる

このような状況、つまり、株式市場の見通しが横ばいで、変動が大きく、むしろダウンサイドリスクが大きいような市場環境で、リスクをコントロールした上でいかにリターンを高めるかという点について同レポートは興味深い示唆を提供している。

詳しくは、そして正確には同レポートに直接当たっていただく必要があるが、印象に残ったポイントは以下の通りである。

ボラティリティ・ターゲット戦略とは

1. リスク資産とリスク・フリー資産をリバランスして、ボラティリティーを期間にわたり一定に保つボラティリティ・ターゲット戦略は、バイ・アンド・ホールド戦略に比べてシャープ・レシオを高め、ドローダウンのサイズを減少させることにより、(ポートフォリオの)価値を高める。(…volatility targeting strategies that rebalance between the risky asset and the risk-free rate to keep volatility constant over time can add value when compared to buy-and-hold strategies increasing the Sharp ratio and reducing the size of drawdowns.)

ボラティリティ・クラスタリングとファット・テイル

2. これらの利点の背景には、ボラティリティ・クラスタリング(volatility clustering; ボラティリティーが房をなす、大きな変動に大きな変動が続き、小さな変動には小さな変動が続き房をなす)と、ファット・テイル(fat tails; リターンの分布のすそ野が厚い)という現象がある。(We show that the key effects behind these benefits are volatility clustering and fat tails. )

リターンとボラティリティーの負の相関関係

3. リターンとボラティリティーの負の相関関係はこれらの利点をさらに高めることになる。(A negative correlation between returns and volatility increases these benefits.)

ハイ・イールド債、株式に効果的

4. ボラティリティ・クラスタリングとファット・テイルの傾向が強い資産、例えばハイ・イールド債では、ボラティリティー・ターゲット戦略の効果が最も顕著である。(Assets with stronger volatility clustering and fat tails, for example, high-yield bonds, show the most significant improvements.)

5. 株式についても顕著な効果が見られる。(The effects are also significant for equities…)

コモディティに効果は弱い

6. しかし、コモディティー(商品)については、ハイ・イールド債や株式ほど顕著な効果は見られない。(…but less so for commodities.)

投資適格債、国債には効果無い

7. 投資適格債と国債については、過去20年間、顕著な効果を生み出すほど強いボラティリティ・クラスタリングの現象は見られなかった。(For investment-grade corporate bonds and government bonds, volatility clustering has not been sufficiently strong in the past 20 years to generate any significant or visible effects.)

ボラティリティ・クラスタリングとマーケット・タイミング

8. ボラティリティー・クラスタリング効果は、本質においてマーケット・タイミング効果である(The volatility clustering effect is in essence a market-timing effect.)

ボラティリティの予想が鍵

最後のポイントは重要である。つまり、ボラティリティ・ターゲット戦略は効果があるが、その効果の程度は結局のところ、ボラティリティの予測にかかっているということ。マーケットタイミング戦略が、結局のところ超過リターンを産む出すことが難しいという実証研究がある。

ボラティリティ・ターゲット戦略とトレンド・フォローイング

ボラティリティとリターンが負の相関関係にある点から言えば、ボラティリティ・ターゲット戦略は、トレンド・フォローイング戦略に通じるところがある。つまり、相場の上昇局面には、乗っかっていく。ボラティリティが高い、下降局面では、リターンもマイナスになる傾向があるので、リスクを下げることが賢明である。

ボラティリティに留意

いずれにしても、同リポートはボラティリティに留意することにより、運用のパフォーマンスを上げることができる可能性を示唆している。本年の株式市場はボラティリティにどう対処したかがパフォーマンスを左右した年といえるのではないだろうか。

以上

2016.12.8

 

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