バリュー投資入門(7)バフェット2017(7)

中湖 康太

7.  バークシャーの損害保険事業

今回は、バフェットによるバークシャーの損害保険事業の説明です。バークシャーがなぜ、損害保険事業に参入したのか、何にポイントを置いて運営しているのか、がよくわかります。

バフェットが重視する3つのポイント

ポイントは、次の3点であると思います。まず、第一にバフェットは保険事業を市場性有価証券への投資(これはオルタナティブ投資的な発想といえるでしょう)と見ていること、第二に、資産の流動性(これをバフェットはフロート“float”と呼んでいます)を重視していること、第3に、バフェット自身がよく理解している事業である、ということです。

流動性、換金性に優れた上場株式

これらの点は、読者の皆さんの投資にあたって参考にして欲しい点であり、私も重視している点です。特に、日本では株式投資を危険なもの、場合によってはギャンブルに近いという見方をする人が多いように思います。

下がるリスクと上がるチャンス

しかし、実は上場株式は流動性が高く、この点においては債券などより預貯金に近く、換金性においては、債券、特に不動産よりもはるかに勝れているということです。多くの人は下がるリスクを気にしますが、株式は上がるチャンス、機会を提供しています。

配当というインカム

さらに実業から配当というインカムも提供されます。たとえ経済危機にあっても、比較的安定的な配当をもたらす企業を探すということも重要な投資の視点の1つです。

バフェットなどを参考に投資眼を磨く

このように見ると株式というのは実に魅力的な投資対象に見えます。バフェットの投資などを参考にして、投資に親しんでいくことは人生をより豊かにする可能性を得ることになる、といえるのではないでしょうか。

(青字はバフェットの言葉の中湖抄訳)

バークシャーの損害保険事業

よく理解している事業

次に過去51年バークシャーの成長を促してきた損害保険事業について述べたい。これは私がよく理解している事業であるということがポイントだ。

なぜ損害保険事業に参入したか

2017年の同事業の決算を語る前に、我々がどのように、そしてなぜ、保険事業に参入したかについて触れておきたい。我々は、1967年にナショナル・インデムニティ(障害保険)他1社を860万ドルで買収したことに始まる。同買収により有形純資産670万ドルを得た。そして保険事業の性質からして、市場性有価証券に資産配分することができたのである。そうでなければバークシャーが直接に市場性有価証券を所有(再配分)することもできたわけである。つまり、実質的には、純資産価値に相当するコストで米ドル市場性有価証券を得たことになるのである。

資産の流動性(“float”)の重視

バークシャーが払った純資産価値に対する190万ドルのプレミアムは、通常引き受け利益をもたらす保険事業に参入するためのものである。より重要なことは、保険事業は1940万ドルのフロート(流動性; “float”)を得たことである。これは保険会社2社が保有しているのだ。

以来、このフロート(流動性)はバークシャーにとって極めて重要な意味を持つことになった。この基金を投資することによってもたらされる配当、利子、利益はバークシャーに属するわけである。勿論、もし我々が投資による損失もバークシャーのものである)。

損害保険事業の資金フロー

フロート(流動性)は損害保険事業にいくつかの形で利用(実現化)される。第1は、プレミアムは会社に最初に支払われ、損失は保険期間(通常は6ヵ月又は1年間)にわたって生じる。第二は、自動車修理などのいくつかの損失は即時に支払われるが、その他のもの、例えば、アスベストによってもたらされる損害は表面化するまでに何年もかかり、また評価され決済されるまでにより長い時間がかかるのである。第三は、損害支払いは時には何十年にもわたる期間でなされる。生涯にわたって多額の補償が要求される不治の傷害に労災保険が適用される場合もある。

ロングテイル(“long-tail”)の魅力

フロート(流動性)は一般的にプレミアムが増加するにしたがって成長する。ある種の損害保険会社は医療過誤(medical malpractice)や製造物責任(product liability)などに特化している。これらは業界用語で「ロングテイル」(“long-tail”)と呼ばれるもので、自動車事故傷害や住宅総合保険など、必要な損害回復に保険会社が即時に支払い要求される保険よりも大きなフロートをもたらす。

バークシャーはロングテイルの業界リーダー

バークシャーは、長年にわたってロングテイル事業における業界リーダーの1社である。特に、大型再保険契約の特化しており、他の保険会社が被ったロングテイル損失を引き受けている。この種の事業に重要性を置くことによって、バークシャーのフロートの成長は際立っているのである。我々は、米国においてプレミアム収入において第二位の損害保険会社であり、フロートにおいては圧倒的首位の地位を占めている。

AIGのロングテイル損失の再保険の引き受けという巨額取引

2017年のプレミアム額は、AIGが被った200億ドルのロングテイル損失の再保険を引き受けた巨額取引によって大幅に増えた。同保険へのプレミアム額は102億ドルの世界記録である。今後このような取引が起こることはないだろう。したがって、2018年のプレミアム額はやや減少するだろう。

金融危機を安楽に乗り切る

フロートは今後数年にわたって恐らく徐々に増加するだろう。減少を経験することになったとしても穏やかなもの(最大で年3%程度)になるだろう。銀行預金や生命保険契約のように解約オプションがあるものと違って、損害フロートは解約することができない。つまり、損害保険会社は金融危機時の大型の取り付け騒ぎを経験することはできない、ということになる。これはバークシャーにとって極めて大きな意味を持ち、我々の投資判断をする際の要因として取り入れられている。

チャーリーと私は、流動性危機に直面した際に、誰か頼りにしなければならないようなことがないようにバークシャーの事業を運営している。2008-09年の金融危機の時、我々は財務省短期証券を好んだ。これによりバンクラインやコマーシャルペーパーを頼りにしなくて済んだのである。我々は意図的にバークシャーを極端な出来事、市場の閉鎖や経済の途絶を安楽に乗り切れるような形で運営しているのである。

2018/8/21

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