SAJバックナンバー読む: スチュワードシップ(3月) 監査報告書の拡張(4月) 金融政策の正常化(5月)

中湖 康太

証券アナリストジャーナル(SAJ)のバックナンバー特集(Mar., Apr., May.2018)を簡単に見ておきたい。

2018年3月号「特集:スチュワードシップ・コード改訂と機関投資家」

エージェンシー問題解決策としてのスチュワードシップ・コード

日本版スチュワードシップ・コードは、2014年に、政府の成長戦略の一環として策定され、17年5月に改訂された。企業への資金の出し手である機関投資家に、その委託者である投資家に対する責任を意識させ、企業との建設的な対話を通じて企業の持続的成長を促すことで、委託者(投資家)のの中長期的リターンを向上させることを目指している、というものである。つまり、機関投資家のスチュワードシップコードは、本来投資家であれば行っているであろう企業への働きかけ、行動をエージェントたる機関投資家にうながすものである。それはエージェンシー問題の解決策としての性格を持つと言えるだろう。

スチュワードシップの外部性

機関投資家は運用報酬を投資家から徴収しているわけであるから、このような行動をとることは本来当然であるが、そこには外部性(特定の機関投資家がコストをかけこのような活動をすることによって他の投資家がベネフィットをコストをかけないで得るフリーライダーの問題)が存在する。そのために、機関投資家が議決権行使を含めて、企業への積極的な企業への働きかけをためらう可能性がある。日本企業にありがちな横並び意識がある場合にはなおさらのことである。

アベノミクスの成長戦略として導入されたスチュワードシップコード

そのため、アベノミクスの成長戦略の一環として出てきたのがこのスチュワードシップ・コードなのである。こういったことが政府主導で出てくるのがまた日本的といえるわけであるが、スチュワードシップ・コードの制定・実行は、投資家の立場からは極めて望ましいことであるといえる。

投資家としての印象としては、機関投資家の投資先企業への働きかけはまだ十分であるとは言えない。今後よりアクティブな活動を期待したいところである。但し、コーポレートガバナンスが、ESGの流行と相まって企業経営者に着実に意識されていっていることもまた感じるところでもある。但し、企業毎にその浸透度合いもばらつきがあるのもまた実態であるといえる。スチュワードシップ・コードがそれをさらに強力に後押し、投資リターンの向上に寄与することを期待したい。

投資家はすでにインゲージメントのコストを支払っている

同誌解題では、スチュワードシップ・コードのエンゲージメント(実行)に伴うコストの問題が指摘されているが、投資家からすればこれは運用報酬としてこれまでも支払ってきたものである。本来されるべきことが行われてこなかったとみるべきではないだろうか。問題の所在はむしろ上述したようなエンゲージメントの外部性にある。スチュワードシップ・コードによりこのような外部性が解消されることを期待するのである。

2018年4月号「特集:監査報告書の拡張と監査の情報提供機能」

監査は適正になされてきたのか?

企業の不正会計、不適切会計により投資家が損害を被るケースが後を絶たない。それら問題となった企業の有価証券報告書に掲載されている監査報告書をみてもそういった不正、不適切さは指摘されてはいない。つまりは、監査法人が適切な監査を怠った又は怠った可能性がある、ということになるであろう。

監査の実効性を高める拡張

これまでのように判で捺したような「紋切り型の監査報告書が劇的に変わろうとしている」と同誌解題に述べられている。これは望ましいことである。監査法人としても、これまでできなかった留意すべき事項を、指摘、表現する自由が得られることになり、より適切な監査とその報告ができるようになることが期待される。一方、拡張された監査報告書を分析し、評価することが証券アナリストや投資家にも要求されることになる。

職業倫理の問題

わたしはこれは専門家としての職業倫理の問題であると基本的には考えている。企業経営者、会計士、監査人、証券アナリスト、機関投資家に高い職業倫理が求められるのである。

2018年4月号「特集:金融政策の正常化とマーケット」

2%インフレ目標という罠

金融政策の正常化が話題になってきたことは極めて望ましいことである。米国は既に金融正常化に動き出し、慎重かつ段階的な利上げに踏み切っている。日本においては「2%のインフレ目標」が達成されないために、物価安定下の完全雇用経済が達成されてもなお金融正常化が行われていない。勿論、経済成長を促すために金融正常化は慎重かつ段階的に行わなければならないだろう。

歴史的成功をおさめた黒田日銀のQQE

かねてから言っているように黒田日銀の量的質的金融緩和(QQE)は効果を発揮し、歴史的な成功をおさめているといえる。但し、余計だったのがYCCであると思っている。これは日銀の勇み足である。基本的にYCCを導入しても2%の物価上昇は達成できていない。否、わたしは2%などというインフレが生じていないのはむしろ幸いであると思っている。インフレ期待が生じないのであればYCCをやめても長期金利の急激な上昇は生じないと期待されるからである。

金融政策正常化はYCC脱却から

勿論、経済成長を促すために金融政策の正常化は慎重かつ段階的に行われなければならないだろう。日本の金融政策の正常化は「YCCからの脱却」から始まるというのが私見である。

以上

2018/9/17

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