分散投資の限界:不動産ポートフォリオのテイルリスク(JAI 2017夏)

中湖 康太

「分散投資の限界:不動産ポートフォリオにおけるテイルリスク」マイケル・ステイン、オルタナティブ投資ジャーナル2017年夏号 (“Limits to Diversification: Tail Risks in Real Estate Portfolios”, Michael Stein, The Journal of Alternative Investments, Summer 2017)

  同実証研究は、不動産ポートフォリオ分散投資のリターン分布、特にテイルリスクへの影響を検証したもの。誤解を恐れずポイントを簡単にまとめ、若干の私見を述べたい(正確、詳細については原典参照のこと) 。

 マイケル・ステイン氏は、ドイツ、ドイスバーグ-エッセン大学経済学部ビジネススクール教授 (Michael Stein, Professor with the Faculty of Economics and Business Administration, University of Duisburg-Essen in Essen, Germany: michael.stein@steinpage.com)

ポイント

 不動産資産の増加に伴って、リターン分布は見事に正規分布に近づく。しかし、本研究が浮き彫りにした驚くべき実証は、期待に反し、3つのサブセクター(産業、リテール、オフィス)への分散投資は、テイルリスク(イベントリスクといっても良いであろう:中湖注)への影響(減少)は観察されない、ということである。

若干の私見

不動産投資への示唆

 これは、リートへの投資を含め不動産投資にどのような示唆を与えるのであろうか。不動産への投資を考える場合に、特定アセットクラスに特化して、分散を計るか、いくつかの異なるアセットクラスへの投資を加味して分散を計るかの選択肢がある。

総合型、特化型にとらわれることはないが・・・

 リートにおいても、総合型、オフィス特化型、住居特化型、商業施設特化型、ホテル特化型、物流特化型、ヘルスケア特化型等がある。同実証研究によれば、分散効果は、不動産資産の増加に従って得られるものであり、異なるアセットクラスの分散により、テイルリスクへの影響は観察されない、というものである。

特化型におけるスペシャライゼイションの効果

 同研究では直接考察の対象とされていないが、特定のアセットクラスに焦点を絞ったスペシャライゼイション(特化、専門化)をどう評価するか、ということがある。特定のアセットクラスに特化してポートフォリオを運用すれば、そこに規模とスペシャライゼイションの経済が働き、リターンが高まる、内部成長、外部成長においてその効果が発揮されることが期待されるであろう。

総合型の魅力

 一方で、総合型は、有利な投資機会をとらえた臨機応変なポートフォリオの拡大、運用が可能になるかもしれない(一般には、異なるアセットクラスへの投資による分散効果が期待されるわけであるが、同研究ではその効果は否定されているわけではないが、テイルリスクの減少という形ではあらわれないとしている、と解される)。資産の増加がリスク分散につながるとする同実証研究によれば、総合型は有効であるということがいえる。 

機に応じ、時に応じ投資すべし

 不動産投資への示唆は、総合型、特化型にこだわることはない、それぞれの良さを評価し、機に応じ、時に応じ期待リターンを高めるべくバリュエーションに基づき分散投資すべしということであろうか。

 

以上

2017/7/26

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