不動産証券か実物不動産か? (“Listed or Private Real Estate?”)

2016-11-17

「上場不動産証券か実物不動産か?」(マックス・アーキー、ヴァイス・プレジデント、プロダクト・マネジメント、MSCI不動産部門;オルタナティブ・インベストメント・アナリスト・レビュー誌、2016年第3季号 :“LISTED OR PRIVATE REAL ESATE?”, MAX ARKEY, Vice President, Product Management, MSCI Real Estate; Quarter 3 2016, Alternative Investment Analyst Review)

 

本レポートは、MSCIの指数開発者の立場から、上場不動産証券と実物不動産への投資について考察したものである。上場不動産証券市場の成長、機関投資家動向、パフォーマンスの違い、なぜその違いが生ずるのか等に触れ、投資家ニーズに応える新指数の開発について述べている。以下、まずREIT・上場不動産証券投資と実物不動産投資についての私見を述べ、次に本レポートの要約を記することにしたい。

 (私見)

REITが実物不動産投資の代替投資になるか? – インカム投資としてはYes、キャピタル投資としてはNo

投資家として、上場不動産証券、特にREITが不動産への代替投資となるかは、関心の高いテーマである。私見では、インカム・リターン(分配金)については、REITは実物不動産の代替投資となるが、キャピタル・リターン(価格)については、実物不動産の代替投資とはみなせないというものである。

キャピタル投資としては、REITを含む上場不動産証券は、実物不動産の動きに必ずしも連動しておらず、変動も大きくリスクが高い。また、インフレヘッジになるかどうか疑問がある。

上場不動産証券の魅力は流動性

一方、キャピタル投資として見た場合のREITを含む上場不動産証券の最大の魅力は、その流動性の高さである。実物不動産の最大の欠点は流動性の低さである。

実物不動産投資の魅力は個別性 – 利回りだけで見るのは誤り

実物不動産の最大の魅力は、その個別性であり、唯一無二性である。実物不動産投資、収益不動産投資を利回りで評価するのが一般的であるが、これは適切でないと考えている。利回りを追い求めるのであれば、流動性の高さもあり、REITがより適している。実物(収益)不動産投資の最大の魅力は、利回りと共にその唯一無二性、個別性である。その個別性、唯一無二性(供給の制約)を発見するのが実物不動産投資の最大の魅力であると考えている。

(レポートの要約)

拡大する上場不動産証券市場と新指数の開発

MSCIでは本年8月から上場不動産を独立のセクターに位置づけ新たな指数を開発した。この背景には、不動産投資のグローバル化があり、機関投資家が上場不動産証券を、シンプルで、流動性に富んだ、不動産の国際分散投資の一部または代替投資として認識しはじめていることがある。但し、上場不動産証券投資は、REITを含めコーポレート(法人)レベルでの情報開示は進んでいるが、アセット(所有実物不動産)レベルでの情報開示は乏しいという問題がある。

株式市場における上場不動産証券市場のシェアは、近年急成長している。機関投資家動向は、次の2つに分けられる。第一は、上場不動産証券を不動産投資への投資の1部と位置付けるもの。第二は、たんに上場株式市場の1部として位置付けるものである。しかし、近年の傾向は、前者、つまり多くの機関投資家が上場不動産証券を不動産投資の一部として見るようになっている。機関投資家の不動産投資における上場不動産証券のシェアは、アジアで高く、欧州で低い。米国はほぼグローバル平均並み(約40%)。

上場不動産証券と実物不動産のパフォーマンスの違い

理論的に上場不動産証券と実物不動産のパフォーマンスは違わないはずである。しかし、実際には上場不動産証券と実物不動産のパフォーマンスの相関は低く、短期では特にそれが顕著である。この原因の一つが、上場不動産証券が株式市場のノイズとボラティリティーに影響されるのに対し、実物不動産は定期的なアプレイザル(鑑定評価)で評価されることがある。

ボラティリティーの修正とデレバレッジ

これを是正するため、MSCIでは上場不動産証券のパフォーマンスから株式市場のボラティリティーを除き、デレバレッジ(財務レバレッジの影響を取り除く)した新しいインデックス(指数)を開発した。開発された新しい修正された上場不動産証券指数は、実物不動産のパフォーマンスと高い相関を持つことになった。

コーポレートレベルとアセットレベルの情報開示の違い

上場不動産企業の不動産投資戦略には、(1)小売り、オフィス、住居、物流、ヘルスケア、ホテルといった不動産タイプに関わること、(2)地域的分散に関わること、(3)財務レバレッジに関わること、(4)開発へのエクスポージャーに関わること等があり、これらがパフォーマンスに影響を与えることになるであろう。

上場不動産会社の情報開示はコーポレート(会社)レベルのものであり、アセット(実物不動産)レベルでの開示は極めて限定的である。このことが、不動産投資の一部としてとらえた場合の上場不動産証券投資の実物不動産投資に対する問題点であった。

不動産ベンチマークの確立の必要性

これまでのところ、多くの上場不動産会社は、その株価パフォーマンスを株式市場のインデックスをベンチマークとして比べて示すしかなかった。このようなベンチマークはパッシブ運用の投資家には有用であるかもしれないが、不動産投資の一環として上場不動産証券投資を行う機関投資家のベンチマークとしては不十分であったといえる。

多くの機関投資家は、独立した不動産ベンチマークが確立されることにより恩恵をうけるであろう。つまり、機関投資家は、不動産タイプ、地域、財務レバレッジ、開発へのエクスポージャーといったアクティブな運用の効果を、株式市場のセンチメントから切り離して説明することができるようになるのである。

現状では、アセット・マネージャーやアセット・オーナーが上場不動産証券ポートフォリオのパフォーマンスを適切に分析・評価するベンチマークが存在していないといえる。今後のMSCI Global Intelでは機関投資家がグローバルなレベルで上場不動産証券、実物不動産への投資を客観的に評価できる方法を示していく。

以上

2016.11.17

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