金鉱株は金か株か? (AIAR誌 Q3-2016より)

2016-10-03

金鉱株は、金か株か? (オルタナティブ投資アナリスト・レビュー誌2016 年第3季号より: “New Evidence on Whether Gold Mining Stocks Are More Like Gold or Like Stocks”, Mark A. Johnson, Department of Finance, The Sellinger School of Business and Management, Loyola University Maryland, ‘Alternative Investment Analyst Review’, Quarter 3 – 2016)

金価格の高騰と株に対するアウトパフォーム

金価格が、年初より高騰している。2015年末には1オンス1068ドルだったものが、2016年10月3日に1320.1ドルとドルベースで23.6%上昇している。年初よりS&P500をアウトパフォームしている。もっともリーマンショック直前の2008年10月24日には692.5ドルだったものが、2011年9月11日には1843ドルまで高騰している。この間、金はS&P500をアウトパフォームしている。株が回復する2011年11月から2015年末までは、S&P500 に金はアンダーパフォームした。

このように、株と金は一見逆相関しているようにも見える。とすれば、金はリスク資産が下落すると予想される時、つまりリスクオフの時期のヘッジ機能をもつことになる。これは貨幣、安全資産への投機と同じに見てよいだろうか。と同時に金は貨幣価値の下落懸念に対するヘッジとして投資対象となっている面もあるように思う。

ヘリコプターマネーとヘッジとしての金

何度も引用するが、ケインズは金を「過去の野蛮な遺物」と表現したことがある。私も、そう思ってきた。金はそれ自体インカム収益を生まず、また、貨幣のような流動性を持たない、過去金が貨幣価値の裏付けとして機能してきたことに由来する幻想ではないのか、と解してきた。しかし、中央銀行のバランスシートの拡大、超金融緩和、さらには「ヘリコプターマネー」などという言葉が飛び交う今日、一体貨幣価値は大丈夫なのか、という素朴な懸念が生じる。金価格の上昇は、このような投資家の素朴な懸念を表しているようにも思う。

同調査レポート、このような問いに対して、興味深い示唆を提供している。つまり、一般の投資家は、それ自体インカム収益を産まず、流動性に乏しい金に投資することにはある種の抵抗があるといってよいだろう。であれば流動性のある金鉱株に投資すれば、それは金に投資したのと同様の効果を持つかもしれない。であればそれは代替投資として極めて興味深い対象となるであろう。

いつも言うことであるが、詳しくは、また正確には、原典にあたっていただきたいということである。同調査レポートは過去の論文のサーベイ、回帰モデルの構築、直近のデータを用いた回帰分析、その結論、示唆するところを述べている。わたしなりの解釈でその示唆をまとめ、私見を述べることにする。

金鉱株は、株というより金

同調査レポートの示唆するところは、「金鉱株は、株というより金である。」ということである。

そして、「この結果が、ポートフォリオ運用に意味するところは、金鉱株のリターンは、株(S&P500)のリターンよりも金のリターンにはるかに近いため、おおむね金鉱株は金の代替として機能する、ということである。」

しかし、「より深く検証すれば、・・・金の金鉱株よりも低い株との相関は、金は金鉱株より優れた分散効果を持つことになる。ただし、金鉱株は金よりも高い期待リターンを提供するので、リスク―リターンの視点からは、金がリスク分散資産としての優越性を持つにしても、金鉱株がより魅力的かもしれない」という視点がでてくる。

ポートフォリオ運用における金、金鉱株のリスク分散効果

さらに、「もし、私の株のポートフォリオが金鉱株を含んでおらず、金を持つことができない、または持たないとすれば、金鉱株を持つべきだろうか」という問いに対しては、「金鉱株を持つべきである」ということになる。つまり、ポートフォリオ運用において、「金鉱株は優れた、しかし不完全な金の代替投資である」と結論づけることができるのである。

貨幣価値の下落に対するヘッジと流動性

本論文は、主としてポートフォリオ運用の中で、金、金鉱株への投資をどう位置付けるかというものであるが、個人的に興味があるのは、貨幣への投機的需要、流動性選好との関連で、インフレヘッジ、貨幣価値の下落のヘッジとしての金、金鉱株の位置づけである。貨幣価値の下落に対しての金、金鉱株は魅力的であろう。そして、流動性の観点からは、金鉱株が金よりも優れているだろう。また、期待リターンも過去の研究からは金鉱株の方が高い傾向を持つ。ただし、金も金鉱株も変動が大きく、個別投資の観点からリスクは大きいといえる。

金鉱株は金への間接投資 – その長所と限界

個人的には、貨幣価値の下落に対するヘッジと、流動性の2つの観点から、金鉱株への投資がどちらかといえば魅力的に映る。もっとも、リートが実物不動産に対してそうであるように、金鉱株はあくまで金に対する間接投資であることに留意することも必要であろう。

以上

2016.10.3

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