ダウンサイド・リスクを利用する(JAI 2017年冬号より)

中湖 康太

 “Embracing Downside Risk” (by RONI ISRAELOV, LARS N. NIELSEN, AND DANIEL VILLALON, AQR Capital Management in Greenwich, CT, ‘THE JOURNAL OF ALTERNATIVE INVESTMENTS – WINTER 2017’)

 

ダウンサイド・リスクが提供する投資アイデア

オルタナティブ・インベストメント・ジャーナル誌2017年冬号に、「ダウンサイド・リスクを利用する」(“Embracing Downside Risk”)と題する興味深い実証研究が掲載されている。株式、債券、信用、商品等様々な資産を研究対象としているが、基本的に同じ結論に達している。その中心になるのがS&P500についての実証である(正確、詳細には直接同論文参照のこと)。

3つのポジション

S&P500の買いのポジション、S&P500のカバード・コール(ダウンサイド・リスクに対する保険の販売に基づくポジション)S&P500のコール・オプションの買い(ダウンサイド・リスクをヘッジしてアップサイドをとるポジション)3つのポジションを比較検討している。その結果、S&P 500のカバード・コールのポジションが、もっとも高いリスクに対するリターン(シャープレシオ)を提供するということを示唆する。

同研究論文のEXHIBIT2では、S&P500に関する上記3つのポジションについて、1986年から2014年のデータに基づいた実証結果を示している。同表によれば、超過リターン(幾何学的; excess return; geometric)は、S&P5006.3%S&P500カバード・コールが6.0%S&P500ロングコールが1.0%。ボラティリティは、同じく15.7%9.7%7.0%。シャープレシオは、同じく0.400.620.15となっている。つまり、カバード・コールの超過リターン(幾何学的)は、ロングとそん色なく、かつより高いリスク・リターンを提供していることを示唆している。

ボラティリティ・リスク・プレミアム

EXHIBIT4では、ボラティリティ・リスク・プレミアムをVIX Indexと実現したボラティリティの差(Volatility Risk Premium = VIX Index – Realized Volatility; つまり期待ボラティリティと実現したボラティリティの差)と定義し、その実証結果を示している。ボラティリティ・リスク・プレミアムの平均は年率3.4%で、同期間の88%でプラスとなっている。但し、1987年秋、2008年秋のような暴落時には、大きなマイナスを被っている。

金融商品についての保険商品の販売

著者は、「ある投資家は、・・・例えばカバード・コールのようなボラティリティ・リスク・プレミアムを得ることを追求するかもしれない。このような投資家は、悪い時期に損失を被るかもしれないが、長期的には、より高いリスク調整後リターンを獲得することになりそうである」と述べている。

(Some investors might instead seek to be on the “other side” of those paying for insurance, and thus capture the volatility risk premium, e.g. through covered call. For these investors, having losses solely experienced in “bad times” is likely to lead to higher long-term risk-adjusted returns.)

いわば金融商品についての保険商品の販売で、長期的に魅力的な超過リターンと、より高いリスク調整後リターンを獲得しうる可能性のある投資アイデアを提供しているといえよう。

以上

2017/2/19

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