ボラティリティ・ウェイティング戦略について(JAI冬号より)

中湖 康太

「ボラティリティ・ウェイティングのモーメンタム戦略への適用について」(JAI冬号) “Volatility Weighting Applied to Momentum Strategies” (Johan Du Plessis, a quantitative analyst at Old Mutual Emerging Markets in Captetown, South Africa; Winfried G. Hallerbach, a quantitative investment researcher at Robeco Asset Management in Rotterdam, The Netherlands; “The Journal of Alternative Investments, Winter 2017″)

 

著者は、オールド・ミューチュアルとロべコ・アセット・マネジメントのクウォンツアナリスト。ボラティリティ・ウェイティングをモーメンタム・トレーディングに適用したパフォーマンスについての実証研究。

バリュー投資が投資の王道であるが、ボラティリティへの配慮が必要

バリュー投資が投資の王道であることは変わりがないが、近年のグローバル化した資本市場、リスクのオンとオフが目まぐるしい入れ替わる神経質な市場では、ボラティリティに配慮した投資スタンスがあわせて重要になっていると感じる。

例えば、昨年のマーケットは、ボラティリティにどう対処したかが、パフォーマンス、マーケットに対して超過リターンを生み出したか、絶対リターンのレベルを分けた年であったといえるだろう。そのような観点から、本論文はクウォンツ・アナリストによるもので、極めてテクニカルではあるが興味深いものである。

ボラティリティの予測可能性は高い

さらに、興味深いのは、実証結果から、ボラティリティの予測可能性は高いといっていることである。(“We find that volatility is quite predictable.”)

ボラティリティ・ウェイティングは有効 

同論文の要約と結論を、誤解を恐れずまとめると以下のようなものになるであろう。(テクニカルな内容なので正確、詳細には本論文をあたっていただくことが必須である)

 1. ボラティリティ・ウェイティングは、広く一般に使われている投資戦略であり、リスクマネジメントの1種でもある。

2. 基本的な発想は、ボラティリティが高い(低い)時に、ポジションを縮小(拡大)し、ボラティリティが低い(高い)時にポジションを拡大(縮小)するというもの。

3. 本稿では2つのボラティリティ・ウェイティングについて考察する。第一は、伝統的なボラティリティ・ウェイティング(its own volatility)。第二は、構成資産のそれぞれに着目したボラティリティ・ウェイティング(weighting each of the strategy’s underlying assets with their volatilities)であり、正規化されたリターン(normalized returns)である。

4. シャープ・レシオへの効果に焦点をあて、2つのボラティリティ・ウェイティングについて時系列とクロスセクターのモーメンタム戦略について検証する。実証結果は、2つのボラティリティ・ウェイティング戦略は共にバリューを高めるということを確認した。シャープレシオは高まり、分布の尖度(kurtosis)とダウンサイドリスクは減少し、リスク調整後のパフォーマンスは改善する。

Our empirical results confirm that weighting a strategy with its own volatility as well as using normalized returns adds value: the Sharp ratio increases, the kurtosis and downside risk decrease, and risk-adjusted performance as measured against the 4-factor Fama-French-Carhart model tends to be positive.

5. 伝統的なボラティリティ・ウェイティングは、少なくともリターンとボラティリティの相関関係がネガティブな時には特に効果があり、資産構成に着目したボラティリティ・ウェイティング(正規化したリターン)は、常に効果がある、と結論づけることができある。

We can conclude, though, that weighting a strategy with its own volatility seems to work, at least when the relationship with volatility is negative, and using normalized returns is almost always effective.

リクイディティ(流動性)も重要

同論文で別途考察が必要とされている点のひとつとしてリクイデティ(流動性)がある。実際の投資にあたって、ボラティリティに効果的に対処するにはリクイディティが重要になる。 例えば大手銀行株はボラティリティが大きい一方、リクイディティが高く、また、PBR、配当利回りといったバリューの点からは割安ともいえ興味深い対象である。つまり、単なるバリュエーションではなくリスクが大きいゆえにディスカウントされている、リスク当りのリターンという市場均衡が働いている可能性がある。 

以上

2017/2/7

 

 

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