エネルギー産業の課題と展望; 併せて原油価格動向

中湖 康太

「証券アナリストジャーナル(May. 2016)」に『エネルギー産業の現状・課題と今後の展望』(伊藤敏憲; (株)伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリー代表取締役兼アナリスト)と題した、本年2月22日に日本証券アナリスト協会で開催された講演会の要旨が掲載されている。論題についての分析、考察と共に、今後の原油価格動向について伊藤氏の意見が述べられている。

僭越であるが、伊藤氏は、筆者(中湖)がUBSウォーバーグ証券株式調査部シニア・アナリスト時代の同僚であった。当時から、その鋭く、かつ堅固な分析には、セクターは違うものの刺激され、尊敬していた。今もその分析リサーチ力に変わりなく活躍されている。

伊藤氏の論考は、日本のエネルギー産業だけでなく、今後の日本経済、さらには原油動向について示唆を与えるものである。基本的にはエネルギー産業論であるが、氏が証券アナリストであることから、証券投資にあたっても間接的にであるが非常に参考になるものである。

エネルギー産業がかかえる課題、日本の経済成長との関連、原油価格と米ドル為替レートとの関連、グローバルな原油の需給動向、原油生産者の収益構造、損益分岐点分析、ひいては原油価格の予想等に触れられている。

詳しくは本稿を読んでいただく必要があるが、原油価格の予想に関連して、誤解を恐れず引用すれば、「多くの油田の損益分岐点は60~80ドルの間にあると推するのが妥当だと思われる」、「原油価格は比較的短期間で60~70ドル程度に反発する可能性がある」と伊藤氏は指摘している。損益分岐点は平均コストであり、中長期的な採算ラインであると言ってよい。短期的には限界費用レベルまで下落しうるが、固定費を回収できない限界費用レベルで永続的に操業はできない、つまり、短期的には、平均費用を下回る水準で身を削る競争(Cutthroat Competition)が続くが、高コスト生産者が生産停止に追い込まれる過程を通して、やがて損益分岐点(平均コスト)レベルに復帰すると、見るのが妥当であると推定される(中湖)。

一読をお勧めする (但し、抄訳は上記リンクで無料。Webで全文を読むには、日本証券アナリスト協会に登録が必要)。

以上

2016.5.5

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