Audiobook Review: “REITs Around the World”(世界のリート)

中湖 康太

Audiobook Review

“REITs Around the World: Your Guide to Real Estate Investment Trusts in Nearly 40 Countries for Inflation Protection, Currency Hedging, Risk Management and Diversification” (「世界のリート: インフレヘッジ、通貨ヘッジ、リスク管理・分散のために」

©2010 Gold Egg Investing, LLC (P)2014 Gold Egg Investing, LLC

本書は、世界約40ヵ国のリートを概観したもの。著者は、一般のインカム・インベスター(利子、配当、分配金を目的とした投資家)にとって、リートは適した投資対象であると述べる。というのもリートは分散された不動産からの賃料を主体とする収益から管理費等の費用を差し引いた利益の90%以上を投資家に分配することになっており、しかも、そういった要件を満たしたリートの利益には法人所得税が課されないというメリットがあるからである。

リートの先進国は言うまでもなく米国である。1970年アイゼンハワー大統領時代に法制化されたが、隆盛を迎えるのは1980年代前半。高金利時代に突入し、不動産の差し押さえが多発し、本来良質の不動産が売りに出された、その出口としてリートが活用されたのである。カナダ、中南米、欧州、アフリカ、中東、アジア・太平洋州と紹介がすすめられる。約40か国、実に多様だ。

オーストラリアでも1980年代にスタートし盛んになった。シンガポール、日本でも2000年代初頭に導入された。シンガポールの通称S-REITは、海外、特に日本への投資が多いのが特徴であるという。日本のJ-REITの紹介では、小さいが豊かな国である日本にとって不動産はとても重要であり、1990年のバブル経済崩壊後、長く低迷したが、Jリートは日本の不動産市場に良い影響を与えるかもしれないと述べている。

著者は、実物不動産への投資には主に以下の7つの要件が必要になると述べる。①多くの不動産を見る十分の時間、②交渉力、➂修繕リノベーションのスキル、④資金力と財務的信用力、⑤良いテナントを見つけ維持する能力、⑥物件・テナントの管理能力、⑦物件競争力を維持するための修繕リノベーションのための操業中の十分な資金を持ち続けること。

実物不動産投資大きなリスクとして、①質の悪いテナントにあたってしまうこと、②特定の地域に制約されること、③不動産が被害にあうこと、④質の悪い管理会社にあたってしまうリスク、⑤売却に時間と労力を要すること、等をあげている。

感想(中湖)

リートは通常のインカム・インベスターにとって、①分散された不動産物件へ投資できる、②利益の90%以上を投資家に毎期分配すること、③その利益に法人所得税がかからない、④手間がかからない、さらに⑤上場REITはいつでも市場で売却できることから、非常に魅力ある投資対象である。実物不動産投資を成功に導くための条件、実物不動産投資に係わるリスクは正にその通りである。

一方、40か国が全て現在時点で投資対象になるかというと為替、コスト、流動性、トランスパランシー等の観点から疑問である。日本の一般の投資家が個別に各国のリートに投資するのは、Jリートを除いては現実的ではないかもしれない。実際には、米国を中心に世界のリートに分散投資する投資信託への投資を検討することが妥当かもしれない。

オーストラリア(A-REIT)が米国に続いて早い時期にリートが盛んになったというのは興味深い。現在はJリートが米国に次いで世界第2位の規模になったと推定されるが、A-REITはその通貨とともに魅力ある投資対象と感じる。

欧州のリートも魅力あるが、銘柄数、規模、流動性等の点から、迫力不足の感もある。欧州は不動産に対する意識、実態が封建的なのかもしれない。シンガポール(S-REIT)は、資本市場に対する発想が米国的である。また、多くの国で、リーマンショック前の2005、2006年ぐらいにリートを法制化しているのが興味深い。おそらく、米国の不動産市場がサブプライム問題を起こし、加熱化する過程で、資本が海外に向かっていったことを表しているのだろう。

いずれにしても、本書は、深い考察や分析を提供する書ではなく、世界のリートをざっと概観するものである。リートはこれから世界で、じっくりと益々浸透していくだろう、ということを予感させるのである。

以上

2016.4.17

 

 

 

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