ビートルズ・エコノミックス

中湖 康太

音楽に魅せられるのに理屈はない

音楽に魅せられるのに理屈はありません。ただ、身体に電流が流れる、鳥肌が立つ、つまり「しびれる」わけです。
ある音楽が流れているのを聴いて、「この曲は一体、誰が歌っているのだろうか、何と言う曲なのか、もう一度聴いてみたい、いや何度も聴いてみたい」と感じることがあります。それがビートルズとの出会いです。

筆者はビートルズとは同世代ではありません。ビートルズが活動したのは1960年代です。テレビかラジオかBGMから間接的に触れたのです。音楽に素人である私は、当初、特にビートルズのレコードやCDを集中的にコレクションすることはありませんでした。私はビートルズのいくつかの曲に魅せられながらも、ビートルズとは怠惰な付き合い方をしてきました。音楽については特定のアーティストのめりこむことなく、その時々にヒットした曲を気ままに聴くという程度でした。それは洋楽、邦楽に関わりなくです。

「抱きしめたい」と「ツイスト・アンド・シャウト」

ビートルズについて、最初に私の身体に電流を走らせたのは、次の2曲でした。

「抱きしめたい」(“I Want To Hold Your Hand”)
「ツイスト・アンド・シャウト」(“Twist and Shout”)

「抱きしめたい」については、ビートルズのヒット曲集である「The Beatles 1962-66」で題名を知ることになりました。ビートルズは「抱きしめたい」で、イギリスのロックバンドから、アメリカ市場を制覇し、世界のロックバンドへと飛躍したのです。

また、ビートルズファンからすれば、そんなことも知らなかったのか、と言われると思いますが、「ツイスト・アンド・シャウト」については長らく、それがビートルズが歌った曲だったこと、その曲名も知りませんでした。

「ビートルズ・アンソロジー」

それがビートルズが歌った曲であると知ったのは、数年前に、遅ればせながら「ビートルズ・アンソロジー」(“The Beatles Anthology”)を購入してからです。そして、何故、それまで、「ツイスト・アンド・シャウト(“Twist and Shout”)」を発見できなかったのかを知ったのも、その時でした。この曲は、ビートルズのオリジナルではなく、カバー曲だったのです。ビートルズがライブで活動していたときに、しばしば、そのラストにうたわれていたジョン・レノンがリードヴォーカルをつとめた曲です。

そして、この時、私がビートルズに魅せられていた大きな要因の1つは、ジョン・レノンのヴォーカルであるということを知るにいたったのです。また、「涙の乗車券」(“Ticket to Ride”)に見られるようにジョンとポールのデュエットの素晴らしさも知りました。それから、私のビートルズの再発見の旅が始まりました。なぜ自分がビートルズに魅せられたのか、その原因を知らずに長い時間を費やしたことになります。遅まきながら、その旅は現在も進行中です。

ビートルズ再発見の旅

その旅は、再発見の連続です。ジョンがリードボーカルをつとめる他のカバー曲(“Money”、”Please Mr. Postman” etc.)、ジョンとポールの音楽的才能の違い、ジョージの音楽の発見、目立たないがビートルズの良さを引き出すリンゴスターのドラム、大ヒット曲ではないが、味のある曲(例:シングル「抱きしめたい」のB面「This Boy」等)、ライブをやめてからの多様な音楽、メンバー、グループのバイオグラフィー、解散後のビートルズ等々。ビートルズの曲は、発音がクリアで歌詞を聴き取りやすいのも魅力のひとつです。

ビートルズ・エコノミックス

さて、書き出しが長くなりましたが、「ビートルズ・エコノミックス」について述べたいと思います。ビートルズが解散後も何故、人々を魅了しつづけるのか、そこに働く経済法則を考えるためです。

結論から言えば、その経済法則というのは、「収穫逓増の法則」(“The Law of Increasing Return”)です。通常の財・サービスには「収穫逓減の法則」(“The Law of Diminising Return”)が働きます。例えば、農業を考えます。ある一定の土地に労働力を投入します。当初は、1単位当りの労働投入量から得られる限界的な収穫量(労働の限界生産力)は、増加していきます(収穫逓増)。しかし、ある点を過ぎるとそれは減少し始めます。これが「収穫逓減の法則」(“The Law of Diminishing Return”)であり、ほとんどの財・サービスに当てはまる法則といえます。「盛んなるものにも必ず衰えあり」。永遠不滅の真理といえるかもしれません。

成長株投資

株式投資に例えますと、成長株というのは、主力製品のライフサイクルが収穫逓増のフェーズにある企業ということになります。収穫逓増のフェーズはどこかの点で、収穫逓減のフェーズに移行するのが、合理的な予測である、と通常は考えられます。株価というものは、現在ではなく先を折り込んでいくので、成長株の株価収益倍率(PER: Price Earnings Ratio、 株価が一株当り利益の何倍に当たるのかを表す指標)は高くなるわけです。したがって、成長株投資はそのPERが高くなる前にすることが妥当ということになります。人々の成長期待が株価に織り込まれる前に投資することが成長株投資の極意であるわけです。しかし、これはとても難しいことです。人々が成長株として認識した時には、その成長期待は概ね株価に織り込まれてしまっている、ことが通常です。あとはどの程度織り込まれているか、という問題になります。そして、成長期待が完全に織り込まれていたら、投資としての魅力は無いことになります。過度に期待が織り込まれており、高値づかみになることもしばしばでしょう。

話はそれましたが、ビートルズの音楽には現在も「収穫逓増の法則」(“The Law of Increasing Return”)が働いていると筆者は考えています。

ビートルズ・エコノミックスが働く8つの理由

その理由は、次の8つです。

1.ビートルズの音楽に人々を惹きつける、しびれさせる何かがある

2. ビートルズの曲、アルバムを購入すると、そこに何重層もの発見、魅力がある

3. 多くの人が聴いている、知っているのでテレビ、BGM等あらゆるシチュエーションでビートルズの曲が用いられる

4. ビートルズファンでなくてもどこかでビートルズの曲を聴いたことがある人が増える(人々の潜在意識の中にビートルズの曲が染み込む)

5. 魅せられた曲がビートルズであることを知り、その音楽を購入する

6. 音楽には膨大なジャンル、曲があり、アーティストがあり、通常、好きな曲の発見にはコストがかかる、が既に聴いたことがあり、そこに魅せられる何か(効用)があるビートルズの曲への投資(購入)にはリスクが小さい。故に需要される。

7. 上記の故にプロダクション(供給者)側もビートルズの曲、アルバム、映像への投資のリスクは低く、また一定以上のリターンが得られる。それ故にビートルズ作品が再生産、供給される

8. 世界言語である英語の曲であり、かつビートルズの曲は、発音がクリアで歌詞を聴き取りやすい、わかりやすい。故に需要、供給される。

上記、1-8が繰り返される。つまり、「収穫逓増の法則」(“The Law of Increasing Return”)が働いているというわけです。そのすべての根源は1.であることは言うまでもありません。1.がある限りビートルズに「収穫逓増の法則」が働くことになると筆者は考えます。

 以上

(2015.7)

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