アナリスト出門甚一の冒険 5

作:三島 真一

ウォーターフロント

投資銀行業界へ飛び込んで6か月、ほとんど、土日休日も無く、昼も夜も無く大手町プライムスクウェアビルのUPG証券のオフィスで時を過ごした。クライアントに投資勧誘するために会うために必要なライセンスを取り、セクターレポート、カンパニーレポートを仕上げた。カバレッジを開始したのだ。ウォーターフロントにあるマンションに帰るのはほとんどシャワーを浴び、寝るだけ。深夜に帰り、早朝に出勤する、ほとんどそんな毎日だった。 

唯一のリフレッシュは、海岸マンションから大手町プライムスクウェアへの往復、愛車のバイクCB1100を走らせること、わずかな時間をみつけて、洋子を乗せてツーリングすることであった。入社に当り、UPGにバイクでの通勤についてOKをもらっていた。そしてそのためのパーキングスペースもUPGが提供してくれた。

マーケットがクローズした春の晴天の1日、出門は、洋子の勤めるオフィスの近く、いつもの銀座4丁目の不動画廊で待ち合わせした。横浜へツーリングするためだ。洋子を乗せると、そのまま中央通りを新橋方面に向かった。新橋を汐留方面に曲がった。日テレの前を抜け、突き当りの電通ビルを右に曲がった。浜松町駅手前をさらに左に曲がり、海岸通りに出た。 

首都高に乗りたいところだが、首都高は2人乗りがご法度だ。また、洋子も高速は危険なので嫌がった。高速でなくとも、海岸通りは、ツーリングには心地よい。左足でフォースにギアチェンジし、スピードを上げた。洋子は出門の腰に手を回し、ぴったりと顔を寄せてしがみついている。風をさえぎるためだ。

竹芝から日の出の当りからレインボーブリッジが見える。レインボーブリッジは、青い東京湾に曲線を描くように美しく伸びている。レインボーブリッジの向こうには、巨大な球体を抱くフジテレビビルが見える。丹下健三の設計というが、台場の広大な敷地に横長に伸びる奇想天外な建物だ。いかにもフジテレビらしい。そのエリアには、「踊る大捜査線」の舞台ともなった湾岸署がある筈だ。

出門は洋子に言った。「俺が青島、洋子さんがすみれさんてとこでどうかな?」
洋子は言った。「甚一さんは、室井さんなんでしょ?」
「踊る」は誰でも、自分をあてはめて想像することができるドラマであり、劇場だ。
庶民派で正義感の青島、正義感と組織の狭間で葛藤するエリート室井、非主流派ではあるが。

海岸通りをCB1100で走り抜けた。

(注)この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません

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