アナリスト出門甚一の冒険 1 

作:三島 真一

UPG証券入社

大手町プライムスクエアの18階、外資系証券会社UPG証券の株式調査部テクノロジー担当のアナリスト出門甚一。慶南大学経済学部卒業後、イギリスの情報会社ジュリアス通信東京支社に入社した。ジュリアス通信は世界有数の通信社であるが、当時、コンピューターと通信ネットワークによる経済金融情報システムサービスを提供し、伝統的な通信社から経済金融情報システム会社へと変身していた。

企画開発部門8年間勤務した後、UPG証券のエクイティー・リサーチヘッド、ジェームズ・ヒルに誘われて入社した。ロンドン出張中にUPGの当時、日本株調査部門のジェームズに会ったのがきっかけであった。ジェームズはオックスフォード大学理工学部出身のエリートであったが、日本株の評価に独自の分析手法を編み出し、欧米の機関投資家に日本株のリサーチを提供し、頭角を現していた。日本の企業が株式持ち合いの影響を考慮した株価評価を行った。それは当時の日本株を評価するには有効だった。当時の海外の投資家は日本株に投資したがっていた。機関投資家というものはロジックを大切にする。投資するにあたってロジックが必要で、ジェームズは一見割高に見える日本株を買うために都合の良いロジックを彼らに提供したのだ。これは出門の推測である。勿論ロジックである以上、それはある前提条件の上で妥当性を持つものだ。

出門は大学時代経済学部に在籍したが、その授業は極めて退屈なものと感じていた。限界効用、無差別曲線、45度線分析、IS-LM分析等どれもピンとこなかった。どこか空想の世界の話だろうと思った。だが、同級生はむしろ現実主義で、そういった学問が役に立つの役に立たない、ということはどうでもよかった。それよりも、とにかく就職にはAの数が多い方が有利である、ということでよりプラグマティックに現実に向き合っていた。これは出門の誤解かもしれない。でもとにかく出門の友人たちはもっと大人だった。もっとも後日、経済学が、投資にも実生活にも、極めて役に立つものだ、ということを思い知ることになる。

大学時代には経済学よりむしろ歴史や文学に興味をもった、というよりはとっつきやすかったといった方が良いだろう。同人誌を発行するサークルに入り、短編小説、評論をいくつか書いた。文士は自由人に見えた。自由人にあこがれた出門は文学に傾斜した。がどうも肌に合わなかったようだ。才能ある文学者というものは、文章の神様が乗り移ったように筆が走るらしい。しかし、出門にはそういったことはついにおこらなかった。また、今にして思えば日本の文学というのは、箱庭の芸術というか、実社会からはなれた別の美的世界を構築しているように思えた。それは緻密微細である。しかしそれは才能のある人間にはよいが、そうで無い人間には生計を立てる上でまったく役に立つものではないようだ。

(注)この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません

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